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■海外生活の不安
海外赴任が決まった方に「不安に思うところ」をお聞きすると、
「言葉の違い、語学力」
「病気になった時の対応や予防接種のこと」
「現地の水や食事が合うかどうか」、
そして「子供の学校のこと」
「治安や安全性のこと」
という答えが返ってきます。楽しむだけの海外旅行とは違って、“学ぶ”“働く”そして“暮らす”という生活基盤が加わるとなると不安や危機感の大きさは、時には想像を越えるほどのこともあるようです。そこで不安を起こす元となる事柄の知識を持ち、頭の中を整理しておくことで、少しでも心にゆとりを持ち出国に備えたいものです。
しかし上述のような不安は、一見、海外生活に特異なことのように見えますが、とどのつまり海外へ行っても日本にいた時と変わらず“健康で元気でいたい”という願いの現れではないでしょうか。とすれば、単なる対処法だけでなく、これらの不安の根底にある“健康”そのものも自分の問題として考えておきたいところです。海外生活を日本での生活とは違ったものと考えず、日本での生活と海外での生活を同一線上でとらえること、そして、その直線の心棒にあたる“健康”のために、海外生活でも日頃の自分なりの健康に対する思いや行いを続けることが、海外生活の健康づくりでは何よりも大切だと思います。
■帰国者の肥満傾向
しかし、すべての人が海外での生活を終え帰国した時も、健康を維持しているかというと、そうとはいい切れないのが現状です。不運にも大きな事故や病気に見舞われる方もいらっしゃいますが、もうひとつ、阪上先生の項にもありましたように、“生活習慣病”の温床でもある“肥満”に陥ってしまう場合はもっと多いようです。
事実、海外で生活した方の多くの人の健康診断の結果から、以下のような傾向が見られることも分かっています。1)
| 〔1〕体重 |
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男性は35歳以下の単身赴任者と女性では帰国時には明らかに増えている。 |
| 〔2〕尿酸 |
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男性の単身赴任者に帰国時の増加がみられる。 |
| 〔3〕GGT(γ−GTP) |
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男性の単身赴任者と35歳以下の女性で増加している。 |
| 〔4〕コレステロール |
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男性・女性を問わず、多くの人で増加する。 |
血液中のコレステロールは肉中心の食生活や体重の増加から、GGT(γ-GTP)はお酒の飲み過ぎから、尿酸はカロリー・オーバー、特に肉やお酒のとり過ぎが関係しています。どちらにしても、肉食やお酒の飲み過ぎが原因となって体重が増え、それがコレステロールや尿酸の増加を招き、生活習慣病の引き金になりかねない、といえます。
また、体重だけを見れば、渡航3カ月後までは減り続け、生活に慣れが見えはじめたそれ以降は増加する傾向があるようです。さらに、帰国してからの1〜3年間にわたる変化をみても、残念ながら海外で一度増えた体重はほとんど元に戻らなかったということです。
体重が増える原因は、食事と運動のアンバランスです。体重は健康のバロメーターのひとつといわれています。体重が増えないような食生活や活動量の多い日常生活を送ることは、言いかえれば健康食をとり、健康生活を送ることであるともいえます。
ところが、海外生活を通して健康によくない食事や運動不足が習慣づいてしまうと、帰国後の生活でも改善されにくく、海外で増えた体重も元に戻らない…。逆に渡航前から健康づくりを自分のこと、自分の問題ととらえ、「お酒はたしなむけれど、通勤時は遠回りして歩こう」「週末は好きなものを食べるけれど、平日は間食もしないし、食べ過ぎないように、野菜中心の“質素”な食事にしておこう」など、自分なりの健康観に基く対処法を持っている方は、渡航中も帰国後も体重の変化がなかったとお聞きすることが多くあります。
本来、海外生活の時間は長短はあるものの、一連する長い人生の中では、その通過点に過ぎません。大ざっぱにいえば、生活の舞台が日本か海外であるかだけの差ともいえるでしょう。それよりは、よりよい人生を送るための土台となる健康の大切さに早いうちから気付き、そのために必要な知識を得て、自分の生活習慣の悪いところは何であるか、それを変えるにはどうすればいいか、と自問自答し、改善していく行動力を持つことが大切です。日頃から健康づくりの備えをしていれば、海外生活でも応用できることが多いはずです。
もちろん海外赴任が決まる前から、健康づくりを自分の習慣として取り組み確立しておくことが望ましいのですが、海外生活が決まったことを契機として、目下の海外生活に必要な知識(語学や医療制度など)とともに、健康づくりも準備してはいかがでしょうか。
■松下電器グループの肥満対策
ここでは、松下電器グループの事業所で取り組まれている肥満対策“遊々倶楽部(ゆうゆうくらぶ)”『単なるダイエットを目的とするのではなく、体に負担なく、健康的にやせること、また健康によい食習慣や運動習慣を楽しく学ぶこと』の内容をご紹介しながら、海外生活でも応用できることを考えてみたいと思います。
松下電器グループの従業員の在職中の体重の変化をみると、男性は30歳代後半から、女性は50歳前後から、体重が増加する傾向があり、また、この体重が増加しはじめる年代は、生活習慣病が増加しはじめる年齢とも一致します。そこで、健康づくり施策の一環として肥満対策を行っています。
海外生活に関わりなく、仕事などの生活や加齢による体質の変化など様々な要因により、体重は増えるようです。先に、肥満の原因は食事と運動(活動量)のアンバランスが関係していると申しましたが、それは「食事の量が多く、運動は少ない」場合、「食事は適量であるが運動量は少ない」場合、「運動量はそこそこあるものの、食事量はそれ以上に多すぎる」場合など、食事と運動との兼ね合いの「適量」から外れている状態をいいます〔図1〕。太らないようにするには、まず食事量を調整すればよいのですが、無闇やたらと減らせば栄養バランスが崩れ、体力が落ちたり体を壊すことになりかねません。また、食事量は多いのに栄養素が十分にとれていない場合もあります。間食のお菓子やお酒が多い場合、昼食はいつも決まってめん類とごはんであるなど、同じような食事をしている場合などがそれです。ここでいう食事量とはエネルギー(単位はカロリー)のことです。
ダイエットというと、まず甘いもの(砂糖)や脂肪に目が行きがちです。事実、アメリカでも健康志向が主流となり、ケーキやお菓子に“Low fat”“No sugar”と印字されたものも多くなったそうですが、砂糖や油を減らす代りに他の添加物が増え、その製品自体のエネルギーはあまり変わらないものも多かったようです。そうとは思わず、“Low fat”の文字につられ、安心して食べ続けていたので、体重は減るどころか増えてしまったという皮肉な話もあります。要は、砂糖や油が入っていないものがよいものではなく、それを含む全体の「エネルギー」に注意しなければならなかったのです。ダイエットには、これが良い、あれが悪いというものは特にありません。大切なのは
| 〔1〕 |
1日の食事量(エネルギー)は3度の食事からとること。朝食や昼食を抜くと夕食の量が増えます。また食事の間隔をあけすぎると、体は自らを守るため、エネルギーを節約して脂肪の形で貯えようとします。 |
| 〔2〕 |
食事以外にとるもの(お酒、間食や甘い飲みもの)の「エネルギー」に注意すること
現に5〜6缶/日の缶コーヒーをとっていたのをやめただけで3kg減量、大ビンビールを350ml缶に変え、6カ月続けて4kg減量した方もいます。 |
| 〔3〕 |
前の日と同じ食材や調理法にしないこと。煮ものや煮こみ料理が続けば、塩分のとり過ぎになりますし、油を使ったものが続けば、エネルギーのとり過ぎになります。 |
| 〔4〕 |
そして、その補助として、運動をとり入れること。 |
この4つの事柄がクリアできれば理想です。できれば、食事以外でとってしまった間食やお酒のエネルギーは体を動かして消費するぐらいの気持ちを持って欲しいのです。と申しますのも、運動だけで体重を減らすのは非常に困難だからです。体重70kgの人が体脂肪率を1%減らそうとしたら、計算上は体の中の脂肪を700g減らさなければならないことになります。これを運動で減らすのは大変です。例えば、マラソン42.195kmを走り切ると、その場の体重は数kg減りますが、その大部分は汗の分の減量ですので、数日後には元に戻ってしまいます。肝心の体の中の脂肪はフルマラソンほどの運動をしても400〜600gほどしか減りません。1)
毎日、マラソンをすることは不可能です。それよりも毎日こまめに体を動かすことで、徐々に筋肉が大きくなるので、安静時でのエネルギー消費も多くなり肥満防止に役立ちます。つまりエネルギーは筋肉で消費されるため、筋肉が太ることはエネルギーを消費する工場が増えるようなものだからです。
数年間北欧で暮らし、帰国された方の印象深い言葉があります。「急遽、言葉の知らない国で暮らすことになり、とまどいと不安でいっぱいでした。渡航した当初は慣れないこともあり家に閉じこもって居るばかり…。それでは気も晴れません。そんな折、日本にいた時、野菜をとることが私の健康法だったのを思い出し、一念発起。『よーし、野菜を買いに行こう。野菜の名前を(現地語で)まず覚えよう』と取り組みはじめました。その時初めて私はその国に溶け込めはじめたのだと思います」──健康づくりが海外生活の橋渡しになることもあるのです。
〈参考文献〉
| 海外へ行く人のための健康パスポート: |
亀田孝夫(七賢出版)1994 |
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