「海外生活と薬」
海外に行く場合に持参したい薬

労働福祉事業団・青森労災病院薬剤部 主任薬剤師
三浦 恵吾



1. 処方薬と一般薬の違い

 海外に派遣されるとき発生する問題として、携行していく薬品の種類と数量があります。日本国内では風邪を引いて風邪薬が欲しいとき、近くの薬局で薬を買い求めたり、病院を受診して薬を処方してもらい薬を入手することは、難しいことではありません。よってよほど特殊な理由がない限り、薬がなくて困ることはありません。また、救急箱をご家庭におかれていらっしゃるかたも多いと思います。救急箱の中にはある程度の薬のストックがあり、使用後は必要に応じて速やかに補充することができます。
 また当然のことながら、薬局で買い求める薬(一般薬)には、中学生程度の学力で理解できる内容で書かれてある添付文書(薬の取扱説明書)が入っており、それを熟読することで、薬を安全に使用することができます。また、病院・医院で使用されている医師の処方箋を必要とする処方薬についても、近年それらの薬に対して「お薬情報」などの資料を添付している薬局もあり、現在飲んでいる薬の情報を簡単に知ることができるようになりました。
 医薬品薬には法的には2種類のタイプがあります。
 ひとつは、「処方薬」であり、これは医師の処方箋が必要な薬品です。例えば抗生剤や抗癌剤などであり、一般の人は勝手に買い求めることはできません。
 もう一つは「一般薬」もしくは「大衆薬」であり(以下一般薬と書きます)、これは薬局薬店で、好みにより買うことができます。風邪などの頭痛や発熱・下痢などの症状が出て、軽い症状の場合、一般薬のお世話になることが多いと思います。一般薬は比較的作用が緩かなものが多いのですが、副作用がないわけではなく、きちんと添付文書を読み適切な使用をしないと、思わぬ副作用が発現することがありますので、安易に使用してはいけません。

2. 海外での医薬品の入手

 ところが海外で薬を入手して、それを使用する場合は、状況が違ってきます。
 もし、病院を受診しなくてはならない程度の病気になった場合には、当然のことですが、現地邦人が推薦している派遣先国もしくは近隣諸国の病院を受診することとなります。そこの医師より処方される薬については、薬が医師・薬剤師の管理下で使用されていますので、心配はないと思います。
 問題となるのは、発熱・頭痛・下痢などの症状などで、病院を受診しない程度の軽度の病気の場合で、現地の薬局で薬を買い求め、自分の判断で薬を飲むときです。
 よって現在、海外薬剤情報で必要とされているのが、海外で市販されている一般薬の薬剤情報です。

表1. 海外での一般薬購時の問題点
@商品名が違う
A添付文書(効能書)が英語や現地語で書かれている
B日本で認められていない成分が含有されている場合がある
C含有量が多い
D流通経路・保管状態に疑問がある

 海外で薬を購入する場合、表1に書かれていることが問題となります。
 まず、当然のことながら、日本国内で市販されている商品名が違います。またラベルや成分名、添付文書(効能書)も英語や現地語で書かれております。日本では一般薬として認められていない成分を含有していたり、含有量の多い薬品もあります。さらに国によっては、医薬品の流通経路や保管方法に疑問がある場合もあります。日本で市販されている一般薬と同じように使用できるかの判断は、薬学的知識を必要とします。
 労働福祉事業団は平成6年より、一般薬を中心に海外薬剤調査を実施しております。現地で代用可能な薬が市販されている場合はよいのですが、現地の一般薬が使用に適さないものとした場合、日本より薬を携行することが必要となります。
 ところが、この携行薬に関しての文献を調べると、胃薬・目薬・軟膏などとその医薬品の種類を記載している文献はありますが、胃薬ひとつにしても、どの銘柄の胃薬をどのくらいの量を持っていけばよいのか、これらを具体的に書いてある文献はありませんでした。
 この理由としては、一般薬は、処方薬しか取り扱わない医療関係者には、「関心の少ない薬」であることです。処方薬の選択は処方権を持つ医師であり、薬剤師が処方内容のチェックをして調剤を行うもので、使用する患者の選択権はゼロではありませんが、少ないものです。しかし一般薬の場合は、その選択権は全て患者個人にあります。製薬会社でも処方薬を取り扱う部門と、一般薬を取り扱う部門は全く別個なものであり、一般薬の場合は主にマスコミのコマーシャルを媒介にして宣伝されていきます。よって一般薬を購入する際の決定条件には、薬局の薬剤師の推薦する薬品の他に、有名な女優が出演しているコマーシャルとか、薬局の店頭に張られているポスターなどの情報からもたらされる商品の魅力、また価格情報などが、薬品の選択決定に対しての有力な判断材料となります。特にドラッグストアなどの量販店はその傾向が強いと思います。また、一般薬は処方薬より作用が緩かなものであり、あまり効かない薬といった誤解があることも一因です。

3. 処方薬の携行について

 こうなると、医師が処方薬を処方して、薬を携行させるのが、手っ取り早い方法と思われるのですが、これには法の問題が絡んできます。
 海外派遣者に、医師が処方薬を持たせる場合、次の2つのケースが考えられます。

@本人あるいは会社負担で処方薬を携行させる。
このケースは、本人がまだ疾病に罹患していない患者であるので、有償の場合は医薬品の販売、無償の場合は医薬品の譲渡にあたります。これは薬事法24条不特定・多数の患者に医薬品を販売・授与するのには、医薬品販売業の許可を必要とする、という法律の違反となります。

Aとりあえず処方薬を携行させ、使用した場合にはよく事情を聞き、使用分については事後保険適用とする。
このケースは、医師法20条、医師は自ら診察しないで治療をし、もしくは診断書や処方箋を交付してはならないという、いわゆる無診察治療の禁止という法律の違反になります。

 いずれの場合も、薬事法違反や医師法違反で刑事罰は免れません。よって処方薬を携行させるときは、我が国の法律をよく認識して持たせるように、心がけていただきたいと思います。また、こういった面での法整備を、今後検討していくような議論をしていかなくてはならないと思います。
 しかし法的に問題があるとしても、現実に海外で、劣悪な医療環境下で働かれているかたを目の前にして、明らかに有効である薬剤があるのに、ただ指をくわえているわけにもいきませんので、あれこれ理由をつけて、薬剤を携行させるときには、次の点に注意する必要があります。一般薬の場合には、薬の使用・保管方法、注意事項など中学生レベルで理解ができる内容を記載した添付文書が付いております。これを読めば薬に対して専門的な知識を持たなくても、薬を使用することができます。
 処方薬にも当然のことながら添付文書が付いていますが、それは医学・薬学的な知識を持たないと、理解できない専門的な内容です。仮に、派遣先で使用する可能性がある処方薬を携行させる場合、この添付文書を一緒に持たせる方法もありますが、医学・薬学専門外のかたは、内容が難解で理解することは難しいものと思われます。具体的な内容にしても、例えば用法・用量では標準的な使用量は記載されてますが、医師の裁量により適宜増減する場合もあり、使用する際にどの程度使用してよいのか、判断に難渋する場合があります。副作用や相互作用(薬の飲み合わせ)についても、報告されている症例は頻度も含め全て記載されており、禁忌(絶対に使用してはいけない症例)、警告、重大な副作用、一般的注意、その他の副作用、相互作用とこと細かく記載されています。医師・薬剤師にとってはそれら薬の有害反応について、全てを理解していなくてはなりませんが、一般の人に全て見せると「こんな副作用の多い薬は、恐ろしくて使用することができない。」と携行することを拒否される可能性があります。また副作用の重篤度や発現頻度も記載されていますが、医学・薬学的知識がないと、添付文書からは理解することは困難です。例えば肝機能障害の生化学データの場合、実際に採血して生化学的データで判断しなければならないのですが、これは医療機関を受診しないと不可能です。しかし肝機能障害が進むと、体がだるいとか、白目の部分が黄色くなるとか、自覚症状が出ますので、こういったわかりやすい内容で副作用の徴候を教えてあげますと、割合と簡単に理解することができます。これは高血圧や糖尿病などの持病があり、日本より薬を携行する場合にも、同じことがいえます。
 現在よく行われており、問題があるのは、処方薬を「これは風邪薬、これは下痢止め。」などと、薬の効能と使用量だけの情報を与えて、薬を手渡すことです。これでは派遣先で薬を使用し重大な副作用が発現した場合の対応をとることができません。
 平成9年より薬剤師法が変わり、薬剤師に処方薬の薬剤情報提供義務が課せられており、青森労災病院でも図1のような薬剤情報を、原則として全ての外来患者に渡しております。図はPL顆粒という処方薬の総合感冒剤です。またこれに似た処方内容の総合感冒剤は多くの病院で使用されています。こういった総合感冒剤でも、稀に「無顆粒球症」という重篤な副作用が報告がされています。しかし一般の人に「無顆粒球症の症状が出たら速やかに病院を受診してください。」といっても理解できませんので、薬剤情報では「頻繁に発熱やのどの痛み、口内炎をおこす。体が異常にだるい、といった症状に気づいたら、すぐに主治医に相談してください。」と記載し、もしそのような症状が出たら医療機関への受診を促しております。その他、肝障害・ショックなど「重大な副作用回避のための服薬指導情報集1.2(薬業時報社)」は成書として市販されています。携行させる処方薬の説明書を作成する際の参考となります。
 派遣先で使用される処方薬の重大な副作用回避のためにも、ただ薬を渡して使用方法を説明するのではなく、より詳細な薬剤情報を文書にして手渡す必要があります。

図1 おくすり情報

4. 海外で市販されている一般薬に対する疑問

 さて現地での一般薬の調達ですが、おそらく海外赴任をされたかたのほとんどが、海外の薬は日本よりも、一回使用分に含まれている薬の成分の量が、多いと聞いていらっしゃると思います。ではどのくらい多いのか、また、仮に使用できるとしても、流通経路や保管管理状態はどうなっているのかが、問題となります。たとえ赴任国に薬を生産する技術力がなくても、優秀な医薬品は、先進国から輸入されてきておりますので、多くの場合、医薬品の数には、よほどのことがなければ問題はないと思います。しかし、先進国で製造されたブランド品であっても、医薬品は光や熱に弱い化学物質でありますので、保管状態が劣悪であると、たとえ有効期限内の薬だとしても、薬としての効果が減少していたり、ひどいものになると錠剤のままで便中に排泄される場合もあります。
 私は平成7年1月に、広島にある中国労災病院前田主任薬剤師とともにパキスタン・スリランカ・マレーシアの薬剤調査を行いました。
 パキスタンのカラチで薬剤調査をした際、薬局の店頭で日本語で書かれた下熱・鎮痛剤である処方薬が売られており、驚いたことがあります。通常輸出品のパッケージは英語か輸出国の母国語で記載されるので、不思議に思い帰国後追跡調査をしました。結局その薬のメーカーとしての海外輸出歴はなく、現地での日本人会のかたとお話をしながら立てた、あくまでも推測ですが、アフガニスタン内乱の際、日本政府の援助物資がゲリラに略奪されて、国境を越え、パキスタンに流出したものではないかと思います。その間どのような管理下にあったかは分かりませんが、かなり過酷な条件下にあったことは予想されます。
 またスリランカの薬局で入手した、アミノフィリンという喘息薬の錠剤の含有量を調査すると、表示量の20パーセントしか入っていなかったということもあります。この錠剤は裸錠(全く包装が施されていない錠剤)で、そこの薬局の調剤は、缶に無造作に入れられた錠剤を、手づかみで、必要な数だけ袋に入れるといったものでした。
 開発途上国によっては処方薬・一般薬の区別がなく、麻薬と向精神薬以外は、医師の処方箋がなくても、お金があれば何でも買うことができる国があります。逆にイスラムの戒律が厳しい国の場合、日本人が消毒薬として使用しているエタノールを手に入れることができません。また、煙草の「1本売り」を見かけたことがあるかたもいらっしゃるかもしれません。日本の場合、小売り用の包装を開けた商品は、もはや商品価値はなく、逆に毒物などの犯罪を疑わなくてはなりません。しかし一部開発途上国では、煙草と同様に一般薬の「1錠売り」が行われており、必要な量だけ薬を購入することができます。よって開封販売のため、添付文書はこちらから要求しないともらうことはできませんので、購入の際必要であれば、添付文書が欲しいことを話す必要があります。
 写真1はカラチ(パキスタン)、写真2はコロンボ(スリランカ)の薬局の風景です。いずれも室内空調はなく、室温は30度を超えており品質管理に疑問があります。写真3はクアラルンプール(マレーシア)の薬局です。ここは空調も効いており、品質管理は問題ないと思われます。
 開発途上国、特に熱帯地域で薬局を利用する際は、室内空調の整備状態を見ると、おおよその薬品管理状態が分かります。
 また現地で市販されている薬の含有する成分量が多い場合がありますので、ご使用時には労働福祉事業団ホームページ(http://www.rofuku.go.jp/index.htm)の海外薬剤情報を参考にしてください。

写真1 カラチ(パキスタン)
写真2 コロンボ(スリランカ)
写真3 クアラルンプール(マレーシア)

5. 海外に携行する薬剤を選定するポイント

 海外に携行する薬剤を選定するポイントとしては、
1) 携行する薬品は原則として医師の処方箋を必要としない一般薬とすること
 前述のように、疾病に罹患していないのにもかかわらず、処方薬を携行することは法律の問題があり、風邪や胃腸薬など一般薬が使用できるものは極力一般薬を携行するようにします。医療従事者から考えると、処方薬のほうが単価が安いように思われますが、医師が診察し処方箋を書き、薬剤師が調剤を行い、薬剤情報を提供することも処方薬のコストに加算されます。現在は健康保険で医療費の2割もしくは3割負担で医療を受けられますが、その差額分は結局、私たちの保険料で賄っているので、大差はないと思います。
 薬品の選定に関しては、我が国には我が国特有の制度である、配置薬販売業という、薬品販売業種があります。これは訪問員が、ある程度の一般薬を箱に入れて家庭に置いてもらい、使用した分を次回訪問時に補給し料金を徴収する家庭配置薬です。配置薬販売業訪問者は、訪問する各家庭の人員構成、その地域で流行している疾病の状況を把握し、経験と勘で配置する薬品と数量を決定していきます。この方式が参考になります。
 携行する薬品量については、滞在国のどのような任地に滞在するのか、業務内容、期間、赴任者の健康状態、人数構成(家族、子供を同伴するか)を考慮します。また配置している薬品の管理方法、補給について情報を提供する必要があります。
 注意しなければならないのは、麻薬と間違われる可能性がある粉薬は避けたほうがよいと思います。イスラム圏は麻薬の所持者には、死刑を含めた厳しい処分が行われる可能性があります。
2) 使用方法・注意については、各薬剤に添付文書が必ずついていますので、それを熟読すること、紛失しないようにすることを指導します。
3) 現地医療事情、現地流行伝染病情報を考慮して、日本では流行していない疾病については、その疾病に対する基本的な予防策及び発症時での対応法に関しての情報を提供します。例えばマラリアや細菌性の下痢が発生している地帯ですと、風邪様の発熱症状ではマラリア、発熱を伴った下痢ではコレラ・赤痢等を疑い、薬に頼らず、医療機関の受診を考慮するような情報を提供します。
4) 衛生及び医療状態の悪い地域の場合、ガーゼ、注射器や生理用品などの衛生材料等も携行します。
 国によっては、病院に行っていざ点滴治療が必要な場合、点滴薬や注射針まで、町の薬局で購入し持ち込んで注射をする場合もありますし、注射針の再使用をしている病院もあり、不十分に消毒をされた注射針の使用で、肝炎などの感染の可能性もないとはいえません。
5) やむを得ず処方薬を携行する場合は、薬の服用・管理方法、重大な副作用回避のために一般薬の添付文書に相当するお薬情報を添付します。


6.携行薬品1名用の基本セット

 携行薬品1名用の基本セット(約1年分)の参考データは表2のようになります。

表2.携行薬1名用の基本セット(1年分)

薬品の選択は現在頻用されている薬品を選びました。もちろん同じ疾患に使う薬を他の銘柄に変えることも可能です。薬の量は、およそ1〜2週間は十分に持つ量です。もし、よく風邪を引きやすい体質のかたなどで、よく使うと思われる薬品に不足を感じるようでしたら量を増やしてください。また一般薬の場合同じ銘柄でも、年度によって薬の配合内容が変わる可能性がありますので、現在飲んでいる薬品の添付文書を紛失しないように注意してください。
 各薬品の簡単な使用上の注意は次のとおりです。

(1)解熱鎮痛剤(バファリンA錠 24錠:ライオン)
 アスピリン(非ピリン系)の薬です。1回2錠、1日2回を限度とし、なるべく空腹時を避けて服用します。服用間隔は6時間以上をおいてください。
 15歳未満の人には使用できません。

(2)風邪薬(パブロンエス錠 90錠:大正製薬)
 総合感冒剤です。風邪の症状(咳、たん、のどの痛み、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、悪寒、発熱、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み)に使用します。15歳以上1回3錠、1日3回、食後なるべく30分以内に服用します。
 眠気を催すことがあるので、自動車または機械類の運転操作はしてはいけません。
 発疹・発赤、悪心・嘔吐、便秘、食欲不振、排尿困難、めまい等の症状があらわれたときは、服用を中止し、医師・薬剤師に相談してください。

(3)胃腸薬(キャベジンコーワ錠 200錠:興和新薬)
 複合胃腸薬です。胃酸過多、胸焼け、げっぷ、胃痛、胃重、胃部不快感、飲み過ぎ、食べ過ぎ、嘔吐、胸つかえ、消化不良、消化促進、胃部・腹部膨満感、食欲不振、もたれ、胃弱、はきけ(むかつき、胃のむかつき、二日酔い・悪酔いのむかつき、嘔気、悪心)に使用します。15歳以上1回2錠、1日3回食後に服用します。
 口の渇きを生じることがあります。
 薬によりアレルギー症状(例えば、発疹・発赤、かゆみ等をおこした人)は、服用前に医師・薬剤師に相談してください。また服用により、アレルギー症状があらわれた場合は服用を中止し医師・薬剤師に相談してください。

(4)整腸剤(新ビオフェルミンS錠 120錠:武田薬品工業)
 整腸剤です。整腸(便通を整える)、軟便、便秘、腹部膨満感に使用します。15歳以上1回3錠、1日3回食後に服用します。

(5)乗り物酔い(トラベルミンシニア 10錠:エーザイ)
 乗り物酔いによるめまい、吐き気・頭痛の予防及び緩和に使用します。
 15歳以上は、乗車船30分前に1回1錠服用。その後必要に応じて、4時間の間隔をおいて1錠ずつ服用します。なお1日の服用回数は3回までです。
 眠気を催すことがあるので、自動車または機械類の運転操作はしてはいけません。  薬によりアレルギー症状(例えば、発疹・発赤、かゆみ等をおこした人)は、服用前に医師・薬剤師に相談してください。
 発疹・発赤、かゆみ、動悸、排尿困難等の症状があらわれたときは、服用を中止し、医師・薬剤師に相談してください。

(6)下痢止め
 (@マルピー下痢止めS 12錠:大日本製薬)
 (A大正下痢止め<錠剤>40錠:大正製薬)
@ 15歳以上1回2錠、1日2回。下痢が止まれば服用しないでください。服用間隔を4時間以上あけてください。
A15歳以上1回4錠、1日3回服用します。服用間隔を4時間以上あけてください。

 下痢、消化不良による下痢、食あたり、はき下し、水あたり、下り腹、軟便に使用します。@15歳以上1回2錠、1日2回。下痢が止まれば服用しないでください。服用間隔を4時間以上あけてください。A15歳以上1回4錠、1日3回服用します。服用間隔を4時間以上あけてください。
 薬によりアレルギー症状(例えば、発疹・発赤、かゆみ等をおこした人)は、服用前に医師・薬剤師に相談してください。
 急性期の激しい下痢、発熱のある下痢、血便・粘液便が続く場合は細菌性の下痢が考えられるので、この薬で無理に下痢を止めようとすると、かえって病気を悪化させることがありますので、医療機関の受診を検討してください。
 また服用により、アレルギー症状があらわれた場合は服用を中止し医師・薬剤師に相談してください。

(7)目薬(サンテFX 1本:参天製薬)
 目の疲れ、結膜充血、眼病予防、紫外線などによる眼炎、まぶたのただれ、目のかゆみ、目のかすみ(目やにの多いときなど)、ハードコンタクトレンズを装着してるときの不快感などに使用します。1回2〜3滴を1日5〜6回点眼します。
 目の痛みが激しいとき、目薬によってアレルギー症状(例えば、目の充血、かゆみ、腫れ、発疹・発赤等をおこした人)、緑内障の人は点眼前に医師・薬剤師に相談してください。

(8)消毒薬(希ヨードチンキ 50ml:建栄製薬)
 傷の消毒薬で、適量を1日数回患部に塗ります。
 目に入らないように注意してください。万一目に入った場合は、すぐに水またぬるま湯で洗い流し、眼科医の診察を受けてください。口唇等の粘膜の部分、口の中、目の周りには使用しないでください。
 マーキュロクロム液とは同時に使用しないでください。
 希ヨードチンキは表3のように、水が細菌などで汚染され、飲料に適した水を入手することができない緊急時には、飲料水を調製することができます。よって文房具店でスポイトを2〜3個買っていくと便利です。

(9)虫さされ軟膏(オイラックスクール 20g:藤沢薬品工業)
 虫さされ、かゆみ、蕁麻疹、湿疹に1日数回、適量を患部に塗ります。
 目に入らないように注意してください。万一目に入った場合は、すぐに水またはぬるま湯で洗い流し、眼科医の診察を受けてください。口唇等の粘膜の部分、口の中、目の周りには使用しないでください。
 熱帯地域の場合は、昆虫が媒介する重篤な疾患(マラリア、トリパノソーマ症、フィラリア症、リーシュマニア症、デング熱など)が多いので、それら疾患の流行地に出かける場合は、その地域で問題の媒介昆虫の生態を十分に理解し、媒介昆虫に刺されないように注意してください。

(10)湿布(サロンパスE 46枚:久光製薬)
 腰痛、筋肉痛、関節痛、肩こり、神経痛、リウマチ、筋肉疲労、打撲、捻挫、頭痛、歯痛、のどの痛みに使用します。
 目の周囲、粘膜、湿疹・かぶれ・傷口部位には使用してはいけません。

(11)うがい薬(イソジンうがい薬 100ml:明治製菓)
 口腔内及びのどの殺菌・消毒・洗浄、口臭の除去に使用するうがい薬です。本剤2〜4mlを、水60mlに薄めて、1日数回うがいをします。ヨウ素に対して過敏症のある人、甲状腺の病気のある人は使用できません。
 うがいをする水にも注意をしてください。水が細菌などで汚染されている場合は、本剤を入れても、水はすぐに殺菌できません。使用する水に不安がある場合には、フィルターを通し5分程(できれば15分)煮沸した水を用いるか、ミネラルウォーターなどの飲用可能な水を使用してください。また表3で希ヨードチンキを用いた飲料水も使用できます。

表3.飲料水の消毒方法

その他の医薬品としては、便秘薬・ビタミン剤・健康食品などがあります。これらは好みや、薬が合う合わないといった個人差がありますので、種類・量は割愛させていただきます。また、衛生材料は表2のとおりです。
 これら薬品・衛生材料は日本国内の各家庭でも、救急箱の中に常備しておきたいものです。
 そして海外でのこれらの薬品の使用は、日本国内では流行していない疾患に罹患している可能性があるため、2〜3回程度の使用で症状が改善されない場合は、医療機関への受診を考慮することが必要です。
 携行薬のリストにはコンドームを入れておきました。人間の性行動は、いかに理性があったとしても、その現場に遭遇すると押さえられない場合も多く、実際海外渡航者の性行為性感染症は増加しております。企業の出張者のためのオリエンテーション用の資料で、携行薬品のリストに記載すると、企業イメージダウンなどの不都合が生じる場合は、口頭で指示したり、人事担当者が餞別代わりに手渡すといった、心配りが必要です。

マラリアの流行地域や、医療機関が近くにない地域などでは、ドキシサイクリンなどの抗生剤を携行させることとなります。その際には、抗生剤の適正な使用方法と、予測される副作用を十分理解させる必要があると思います。
 各薬品の簡単な使用上の注意は次のとおりです。

(1)マラリア予防(ビブラマイシン100mg 60錠:ファイザー)
 1日1回1錠朝食後内服します。最大内服期間は8週間です。また流行地を離れてからも、4週間継続内服してください。
 生活上、注意する点としては、めまい、ふらつきなどがあらわれることがありますので、車の運転や高いところの作業、危険を伴う機械の操作などには十分注意してください。
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに医師・薬剤師に相談してください。
1. 急な呼吸困難(ぜーぜーいう)、冷や汗が出る、口や手足がしびれる、めまい、ふらつき、ひどい蕁麻疹などの全身症状や顔色が蒼白になる、便意・尿意がおこり、寒気がするなどの症状があらわれた場合
2.目が充血する、皮膚が赤く腫れて痛む、皮膚粘膜がただれ、全身や目・口などの粘膜にひどい発疹やかゆみが出た場合
3.急に尿の量が減ったり、全身がむくんだりした場合
4.ひどい咳が出る、息が苦しい、発熱が強くあらわれた場合

 マラリアの薬剤による予防は、定期的な服用により発症を抑制するもので、感染を防止するものではありません。従って現在のところ全てのマラリアを確実に予防しうる薬剤はないことをご承知おきください。
 流行地へ赴任後、任国地の薬局で、クロロキン(商品名:アラレン・レゾヒン・ニバキン等)もしくはメフロキン(商品名:ラリアム)のいずれかを購入します。服用方法は週1回、クロロキンは300mg、メフロキンは250mgを内服します。
メフロキンの場合の生活上の注意は、平衡障害をきたすため、服用後28日間は自動車または機械類の運転操作、高所での作業はしてはいけません。
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに医師・薬剤師に相談してください。
1.悪心・嘔吐
2.悪い夢を見る、精神障害、意識障害

 クロロキンの場合の生活上の注意は、長期投薬例(総投与量100グラム)を越えると網膜障害の副作用が出現する可能性がありますので、年に1回は眼科医の診察を受けてください。
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに主治医に相談してください。
1.悪心・嘔吐
2.めまい

(2)抗生剤
@一般細菌感染(サワシリン250mg 100カプセル:藤沢薬品工業)
 ペニシリン系の抗生剤です。傷の化膿などの細菌性の感染症に使用します。
 服用量は1回1カプセル、1日3回毎食後に服用します。症状が悪化する場合には医療機関の受診を検討してください。

 海外では、アモキシシリン(略称AMPC)で同じ薬品を入手できます。アモキシシリンが入手できないときは、アンピシリン(略称ABPC)が代用できます。投与量は同じです。
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに医師・薬剤師に相談してください。
1.急な呼吸困難(ぜーぜーいう)、冷や汗が出る、口や手足がしびれる、めまい、ふらつき、ひどい蕁麻疹がおこる、目が赤くなる、口の中がただれる、のどが痛い(一度なおったのにまた出る)、熱が上がる
2.皮膚や目が黄色い、体がだるい、尿の量が少ない、尿に血が混じる、便に血が混じる、おなかが痛い、下痢がひどい

A赤痢などの消化管感染症(クラビット錠 100錠:第一製薬)
 発熱を伴う下痢などで赤痢・コレラ、1週間以上の高熱が続き、体にバラ疹などが発生する腸チフスなどの消化管感染症が疑われるときに使用します。
 服用量は1回1錠、1日3回食後に投与します。服用はあくまでも緊急避難的なもので、下痢による脱水状態の治療のためにも、速やかに医療機関を受診してください。その際、いつ発症したのか、そしてこの薬をどのくらい飲んだかを、医師に話してください。
 海外では、類似薬のタリビット(成分名:オフロキサシンOFLX)が入手できます。タリビットの服用量は1回2錠(200mg)、1日3回食後に投与します
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに医師・薬剤師に相談してください。
1.急な呼吸困難(ぜーぜーいう)、冷や汗が出る、口や手足がしびれる、めまい、ふらつき、ひどい蕁麻疹
2.全身や目・口などの粘膜にひどい発疹やかゆみが出た
3.けいれん
4.尿の量が減ったり、全身がむくんだ
5.全身がだるく、皮膚や白目が黄色くなる
6.しつこいのどの痛み、高い熱が続いている、ひどい咳が出る、息が苦しい、発熱などが強くあらわれた
7.腹痛、下痢の症状が続き、便に血が混じったり便が黒くなった
8.手足の脱力感、筋肉の痛み、尿が赤くなる
9.空腹感と全身の脱力感が強くあらわれた
10.アキレス腱が腫れたり痛くなった
11.精神的に混乱し考えがまとまらない

Bアメーバ赤痢 (フラジール内服錠 50錠:塩野義製薬)
 粘液便を反復するような下痢が続く場合、糞便検査より診断がつきますので、このような症状が見られたら、病院を受診してください。
 薬を入手できないときに、使用します。
 服用量は1回2錠、1日2回食後に投与します。
 生活上、注意する点としては、飲酒により、腹痛、嘔吐、潮紅などかあらわれることがありますので、服用している間は飲酒を止めてください。
 副作用について、次のような症状に気づいたら、使用をやめて、すぐに医師・薬剤師に相談してください。
1.かゆみなどの皮膚症状、手足のしびれ、異常感等の症状


7. 慢性疾患があり医師より処方箋をもらって薬を飲んでいる人

 最後に、出国時に既に慢性疾患を抱え、既に病院を受診し、処方薬を飲んでいるかたの場合について述べます。
 労働市場の高齢化により、海外派遣者の有所見率も高くなる可能性は、十分ありうる時代となりました。慢性疾患で処方薬を飲みながら仕事をするかたは、国の内外を問わず、多くなるものと予想されます。そのようなかたの医薬品の補給、そして情報支援体制も考慮する必要があります。
 医薬品の補給方法に関してですが、平成10年4月1日より、船員保険法省令が変わり、船員に対する長期投薬日数が最大180日分となりました。しかし他の健康保険では、厚生省が定める疾患別で、90日、30日などの長期投薬が認められているのみで、その他の薬は14日が限度です。30日投薬が認められている高血圧の薬でも、発売後2年以内の新薬は、14日が限度です。これでは薬の補給のために2週間に1回ずつ帰国しなければならず、慢性疾患を持ったかたの、海外への長期出張は、困難なものとなります。日本が法治国家である以上、この法律を遵守する必要がありますが、一方、国の基本的責務として、在外邦人の生命と財産を守ることがあるため、海外派遣者の長期投薬を可能にする法的措置をとることができるよう、議論する必要があります。頻繁の帰国が困難な場合は、日本国内の主治医に、海外でも入手しやすい標準的な薬に処方を変更し、処方内容を英文で作成してもらいます。これを持って現地で日本人会などが推薦している病院を受診し、薬を入手する方法もあります。
 処方薬を携行する際は、薬局で薬を受け取るとき、使用している薬の情報を文書にして一緒にもらってください。一部薬局では「お薬情報」を発行していないところもあります。その際は窓口の薬剤師に、海外に出張するために薬の情報が必要である由を申し出て、薬の名前、成分、使用上の注意、副作用についての情報を紙に書いてもらうようにしてください。
 企業が行う海外派遣者のオリエンテーションのプログラムには、薬の一般的な使用方法や、薬と飲酒の関係についての講義をされることをおすすめします。病識の低い、糖尿病や高血圧の人などは、薬を飲まなくなる可能性があり、またストレスから解放されたいために酒の量が増えるかたもいらっしゃると思います。忘年会や新年会でお酒を飲む前に、胃薬を飲む人を見ることがありますが、肝臓の負担を考えるとあまりおすすめできるものではありません。
 仕事に対する薬の影響は、一見関係のないものに思われがちですが、精神科領域の薬以外でも作業能率や判断力などに影響を与える薬剤は多いものです。たとえ風邪薬でも、眠気などの副作用があるので侮れません。自動車の運転など機械の操作をするかたには、薬剤を服用しながら、作業を行う際に注意しなければならない事項を、十分に理解させる必要があります。また作業管理者は、職員の薬剤の服薬状況を把握し、問題のある場合は、危険な作業に従事させないよう、配慮する必要があります。開発途上国の場合、交通事故や墜落事故などの労働災害などで重症を負った場合、日本のような救命救急設備が整った施設までの距離がとても長いことがあります。輸血についても血液自体が安全であるという保証もありません。
 最後に麻薬や覚醒剤などの特殊な薬について述べます。
 近年日本では、癌疼痛管理に麻薬である硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠)を使用しながら日常生活を送っているかたも多くなりました。このようなかたが観光もしくは仕事(例えばトップマネジメントが海外企業との業務提携に関しての調印)のため、海外へ渡航する可能性があります。この場合医師より患者へ「癌疼痛管理目的で麻薬を使用している。」といったインフォームド・コンセントが必要です。癌疼痛管理目的で積極的に麻薬を使用している先進国の場合は、医師の証明書を持たせることで大丈夫と思われますが、それ以外の国、また極めて稀なケースですが、治療上の目的でコカインや覚醒剤(覚醒剤の場合は国内でも所持証明書が必要)を使用している場合は、出国先の在外公館にお問い合わせください。
 また米国では98年12月現在、日本国内では処方薬として承認されている、睡眠薬フルニトラゼパム(ロヒプノール・サイレース)の所持入国は拒否されます。これは米国では、メキシコからの密輸入により、この薬が犯罪に悪用されているためで、この薬をお飲みのかたは他の薬に変える必要があります。

8. まとめ

 海外派遣時に携行する医薬品については、我が国では法の問題があり、原則としては一般薬を携行することとなります。やむを得ず処方薬を携行する場合には、一般薬の添付文書に相当するお薬情報を、薬局より文書にしてもらってください。慢性疾患で処方薬を継続して飲み続けなくてはならない場合は、その補給ルートを考える必要があります。
 そして薬の安全かつ適正な使用のために、薬の使用前には必ず添付文書を熟読すること、また不安を感じた場合には、速やかに医師・薬剤師に相談することがよいと思います。

9. 参考文献

日本医事新報 No.3549(平成5.3.13)
海外で健康にくらすための手引き(近代出版)
海外に行く人のための予防接種プラン(近代出版)
ビジュアルデータアトラス(同朋者出版)
OTCハンドブック(学術情報流通センター)
大衆薬事典(日本大衆薬工業協会)
読むワクチン(南山堂)
重大な副作用回避のための服薬指導情報集1.2(薬業時報社)

その他薬剤情報を入手するために参考にしている雑誌
雑誌 熱帯(熱帯医学協会)
雑誌 海外医療(海外邦人医療基金)
雑誌 海外勤務と健康(労働福祉事業団)
任国情報(国際協力事業団)

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