「海外赴任と成人病」 成人病を持って海外赴任した場合の健康管理
腎・尿管結石症
三菱電機本社診療所長 小野 駿一郎
尿路結石症とは

 腎・尿管結石症は腎臓で作られた石が尿の流れにより移動する事により起きます。膀胱や尿道結石(下部尿路結石)症に対し、上部尿路(腎臓、尿管)結石症と云われます。以前は下部尿路結石症が多く見られましたが、戦後食生活が豊かになるにつれ上部尿路結石症が増加し(下部の約20倍)、青壮年男性に多く見られます。

症状

 症状は石の場所により異なります。腎孟に石がとどまっている場合は多くは無症状で(出ても鈍痛程度)、腎孟から尿管へ移動すると典型的な症状が出ます。尿管には生理的に狭くなっている場所があり(前ページの図を参照)、腎孟から尿管への移行部、尿管が動脈を乗り越えるところ、膀胱に入る部位です。石はこの狭くなっているところに引っかかって症状が出ます。症状は激しい痛み(疝痛という)と血尿です。又、激痛のため、冷や汗、顔面蒼白、悪心、嘔吐、腹部緊張等を伴います。痛みは腎臓、尿管の走行に沿って、腰部、側腹部、下腹部に出現し、鼠径部や外陰部に向かって痛みが走ることもあります。又、激痛発作に続いて血尿が見られることが多く、目で見て血尿と解らなくても、尿検査では血尿が全例で認められます。膀胱の中に石が落ちると、排尿の途中で石が膀胱の出口を塞いで尿が急に止まるという症状も見られます。尚、尿路に引っかかった石により尿の流れが止められると、尿路感染症を起こしやすくなります。上部結石では、急性腎孟腎炎を起こす(発熱、腰痛等)事がありますが、この場合は緊急且つ適切な治療が必要です。

治療

 尿路結石症の場合は、激しい腹痛等の症状がでる為、医療機関を受診しますが、症状などから誤診されることは少なく、適切な治療を受けることが出来ます。急性期の治療は鎮痛剤や鎮痙剤で、石が小さい場合は運動や水負荷による利尿等(尿量を多くする事)で自然な排石を促します。大きさが5×5mm以下の場合は自然に排石されます。これより大きくても6×9〜10mm位までは自然にでる可能性がありますので、経過を見ることになります。石によっては(尿酸とシスチン結石)溶解療法が有効な場合もあります。自然排石が期待できず、結石により尿路が閉塞され水腎症を起こし腎機能が低下したり、治療抵抗性の感染を合併した場合などは手術療法が必要となります。以前は殆どが開腹手術でしたが、最近では内視鏡的手術や体外衝撃波結石破砕術(ESWL)で治療できるようになりました。しかし尿路結石は再発しやすく、ESWL治療も全く安全ではなく、将来腎機能を低下させたり、血圧上昇を来す恐れもありますので、再発予防に努める事が特に重要です。

海外赴任に際して

 尿路結石症では、海外赴任に際して、次の二つの場合が考えられます。

1.現地で初めて尿路結石症を発症した場合。
 症状・所見等より、誤診されることは少なく、適切な医療機関で治療を受ける事となります。

出た石は必ず成分分析をして貰い、再発予防に役立てて下さい。

2.今迄尿路結石症に罹ったことがある場合。
 現地の医療事情を考慮して、赴任前に医師に相談します(赴任の可否、赴任前治療の必要性等)。

又、再発予防の為の指導を受けます。この場合、以前に出た石の成分分析を受けている場合は、それぞれに通した指導が受けられますが、そうでない場合は、24時間蓄尿を含めた尿検査や血液検査等の結果で指導を受ける事になります。

症状はないが石が出来ている場合は、赴任前の治療が必要です。

再発予防

 従って、問題となるのは、再発予防ですが、全ての石に共通して云えることは、飲水量を多くして尿の中の水の割合を増やして、尿中の結石成分の濃度を薄くする事です。目安としては、一日2.5リットル以上の尿が出るようにする事で、喉が渇いたら水分を摂る、就寝前にコップ1〜2杯の水を飲む事も有用です。石の種類で食事指導は異なりますが、一般的には偏った食事を避け、適度な運動をする事が大事です。

 次に、結石成分毎の再発予防策を述べます。

1.蓚酸カルシウム結石
 次の燐酸カルシウムと合わせると80%位を占め、最も頻度が多い石です。以前は、カルシウム(Ca)を多く摂取しないように指導されていましたが、最近ではむしろCaを多くとるようにと言われます。その理由は、尿中のCaと蓚酸が石を作るのですが、尿の蓚酸濃度の方が重要である事が分かってきたからです。蓚酸はほうれん草、胡桃などに多く含まれますが、コーヒー、紅茶、ビールにも含まれます。食べ物として口から入った蓚酸は腸で吸収されますが、同時にCaを摂取すると腸の中で不溶性の蓚酸Caとなり、吸収が減り尿中への排泄が減ります。又、脂肪の摂取制限も重要とされます。それは、腸の中で吸収されずに残った脂肪酸がCaと結合してしまい、蓚酸と結合するCaが減って、蓚酸の吸収が増えるからです。結局、蓚酸を多く含むものを食べるときは、Caを含むものを充分とり、脂っこいものを減らして、尿中の蓚酸濃度を少なくして結石症の再発を防ぐ事が大事です。又、尿中の尿酸結晶が蓚酸カルシウム結石の核となる事も示されており、尿中尿酸排泄量を減らす事も重要です(4.尿酸結石の項参照)。

2.燐酸カルシウム結石
 この石はアルカリ尿で出来やすく、尿中Ca濃度を減らすように言われますが、蓚酸力ルシウム結石との混合が多く、話いは単純ではありません。

 尿中のCa量が多くなるような疾患(例えば原発性副甲状腺機能亢進症や尿細管性アシドーシスなど)があって尿路結石症を起こしていると診断されていれば、それらの治療を受ける事になります。しかし、基礎疾患が認められない事が多く、再発予防は水分を多く摂取することです。

3.燐酸マグネシウムアンモニウム結石
 これは尿素分解酵素を産生する細菌による尿路感染症に合併する石です。変形菌、緑膿菌等の慢性感染症を起こす菌が問題で、大腸菌による急性膀胱炎などでは作られません。この場合は、慢性尿路感染症の治療が重要となります。

4.尿酸結石
 頻度は結石症の5〜10%程度ですが、豊かな食生活により高尿酸血症を来たし、尿中尿酸濃度が濃くなると起こし易くなります。食事療法は、プリン体を多く含む動物性蛋白質を食べ過ぎない事です。最近では高尿酸血症や痛風を起こす人が多くなっていますが、これらで薬を服用している場合注意が必要です。この場合使われる薬は2種類あり、一つは尿酸の合成を抑える薬ですが、もう一つは尿中への尿酸の排泄を増やして血中の尿酸を下げる薬です。尿中への排泄を増やす薬は当然の事ながら尿酸結石の人では再発を起こしやすいので避けるべきです。飲水量を多くする他に、尿をアルカリにする薬剤(重曹等)の服用を併用します。

5.シスチン結石
 遺伝性のシスチンの代謝異常で家族内発生する疾患です。結石全体の1〜2%に見られます。水利尿、尿のアルカリ化、結石の溶解療法などが行われます。


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