治療の基本は、心と体の安静、不規則な生活の改善、食事療法、そして薬物療法です。
生活のうえでは、喫煙、精神的あるいは肉体的な過労、睡眠不足、不規則な食事摂取などは好ましくなく、改善すべきです。
食事療法としては、潰瘍を治すために、消化が良く、充分に栄養があって、かつバランスのとれた食事が基本となります。例えば野菜や海草など繊維を多く含むものは潰瘍の傷口を刺激するので、控えます。インドや東南アジアに多い香辛料を使った料理、中華料理・韓国料理のような辛い料理、極端に熱いもの、極端に冷たいもののも避けます。揚げ物も消化が悪いので控えます。コーヒー、煙草などの嗜好品は胃酸の分泌を高め、胃粘膜攻撃因子を増やしてしまいます。アルコールも胃酸の分泌を高め、ビールや炭酸飲料は胃壁をふくらませて胃酸分泌を促します。望ましい食べ物としては、日本にいる場合はそばやうどん、豆腐などがよいのですが、海外では、パン、コーンフレーク、牛乳、卵、チーズ、ヨーグルトなどが勧められます。
医師が行う薬物療法としては、攻撃因子を抑制する薬と防御因子を増強する薬を併用するのが普通です。前者としては一般の制酸薬、制酸効果の強力なヒスタミン受容体指抗薬(H2ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬のいずれかを用い、後者としては粘膜を保護する薬や組織の修復を増進する薬を用います。さらに誘因としてストレスが考えられる場合は精神安定剤を加えることもあります。ピロリ菌を殺すために抗生剤を用いる方法もあります。日本では今のところ保険適用になっていませんので、自費診療か特定の医療機関での治験治療に限られています。しかしこの抗生剤併用療法は欧米やオセアニアでは一般に行われているのです。
外科的治療は最近の薬物療法の進歩によりあまり行われなくなりました。例外的に、治りにくい潰瘍や潰瘍の繰り返しで食べ物の通過障害が起こった場合に手術されることがあります。
海外生活での注意
潰瘍の誘因として不規則な生活やストレスなどがあげられます。海外赴任においては、現地の企業の人達との交流や接待が多く、日本から所属企業の人々が来たときの接待もかなりの数にのぼります。
したがって、どうしてもアルコールに接する機会も増えることになります。アルコールは飲まないにこしたことはないが、どうしても避けられない場合は、牛乳や薬を予め飲んでから、薄めて飲むなどの工夫が必要です。
また、現地での生活にうまく溶け込めるかどうかということが、潰瘍が治癒するか再発を繰り返すかということに大きく関与すると考えられます。したがって、カルチャーショックを含めたストレスを解消する上手な方法をみつけることも大切になります。
さらに、潰瘍の場合は、薬の長期内服が必要であり、また治っても再発しやすい性質があるということが問題です。再発を防ぐためには、やはり薬を長期間飲み続けなくてはいけません。薬の確保のしかたについては、所属企業の産業医やかかりつけの医師に相談するとよいでしょう。できれば医師に紹介状を書いてもらい、薬の一般名(国際的に通じる)、内容量、服用法も明記のうえ持参し、現地の医師に継続して処方してもらうのが理想的です。
海外で、潰瘍の治療に抗生物質を積極的に使うことに戸惑いを感じるかもしれません。その場合も前記の日本の医師に相談するとよいでしょう。また最近は、日本において電話で直接相談ができる医療相談システムもあって、各分野の専門医に相談が可能であり、これを利用するのも一つの方法です。