慢性気管支炎の治療は、日常生活をほぼ通常どおり送れる状態(慢性安定期といいます)と入院加療を必要とするような病状の悪化時(急性増悪時といいます)に分けて考える必要があります。
慢性安定期における治療の具体的な目標は、@咳・痰の減少、A呼吸困難の改善、B急性増悪に陥らせないようにする、C低酸素血症の改善、です。
まず、喫煙が慢性気管支炎の原因かつ増悪因子であることを理解させ、禁煙を徹底させる必要があります。禁煙だけで咳・痰の量は減るものです。さらに、気道のクリーニングが重要です。これは、分泌物が気道に貯留して細菌感染の温床を作ったり、気道の物理的な狭窄や閉塞をもたらすので、積極的に排痰をはかることです。すなわち、適度の水分補給、去痰薬、ネブライザーを用いた吸入療法、体位ドレナージなどをきちんと行わせることが重要です。
β2刺激薬、抗コリン薬、キサンチン製剤の内服や吸入も咳・痰の減少や呼吸困難の改善に有用です。咳が強いからといって、安易にせき止め薬(鏡咳薬)を用いることは、かえって気道分泌物の貯留を悪化させるので、やめさせるべきです。急性増悪の原因として、気道感染が最も多いので、日頃より体温、喀痰の鼻や性状に注意を払うべきです。膿性痰をもたらす気道感染の起因菌として、インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、ブランハメラカタラリスなどがあり、これらに対する抗生剤を内服させます。気道感染が反復する場合には、喀痰の細菌培養を行い、どの菌かを確認し、薬剤感受性検査により、適切な抗生剤をあらかじめ選択しておきます。
最近では各種細菌でβ−lactamase産生株が増え、一部のペニシリン製剤が効きにくくなっていますので、セフェム系抗生剤やニューキノロン製剤を用いられることが多くなっています。菌交代現象として緑膿菌が気道感染症の原因となると、抗生剤が効きにくいため、難治化します。最近、緑膿菌の気道感染に対してマクロライド系抗生剤の長期低用量療法が導入されています。
低O2血症に伴う息切れ、多血症、肺高血圧症を認める場合や安静時動脈血O2分圧60Torr以下の場合には、在宅酸素療法を行います。一般には酸素濃縮器を用いますが、これは100V電源につなぐだけで90%酸素ガスを作ることができます。可能ならば24時間、少なくとも夜間就寝中は酸素を吸入させます。在宅酸素療法を受けている患者は航空機で移動しなければならないときは、航空機内でO2吸入ができるように航空会社へその手配をします。
CO2がもともと蓄積している場合では、気道攣縮や喀痰貯溜により急激にCO2が蓄積し、病状が急変することもあります(CO2ナルコーシス)ので、注意が必要です。また、減塩食を厳格に守らせることが右心不全の予防にも有効です。普段は荷物を持ち歩かない人でも、旅先では何らかの手荷物を持つものです。運動時の予備能が低下しているため、手荷物程度の肉体的ストレスが負荷されただけで、容易に呼吸不全や心不全状態に陥ることがありますので、荷物を持ち歩かないで行動するようにさせます。
急性増悪時には入院治療が原則です。入院の基準は@高度の息切れ、咳・痰の増加による症状の増悪、A呼吸促拍、高度の血液ガス異常を伴う呼吸不全状態、B下腿浮腫、労作時呼吸困難の増悪を伴う心不全状態、C肺炎の合併、などです。このような場合は、次の外来診療日を待たずに医療機関を受診させるべきです。気道感染に対して広域抗生剤の投与、呼吸不全対策として酸素療法を行い、気管支拡張剤、去痰剤を投与します。肺高血圧症の増悪により容易に右心不全状態に陥りますので、利尿剤、強心剤なども用います。
電解質異常や低O2血症により不整脈などの副作用が出現しやすいので、これらの薬剤を投与中は注意深い臨床観察と各種モニターを行う必要があります。呼吸不全は多臓器障害を伴いますので、中枢神経、腎機能、消化管出血などに注意が必要です。急性増悪から脱出した後でも、器質的障害が存在するため、呼吸器症状が全く消失するということはありません。