1)鉄欠乏性貧血
最も頻度の多い貧血である。食物に含まれる鉄は胃酸の働きで吸収され易い鉄に変化して、十二指腸または空腸上部で吸収される。日常の食事は約10mgの鉄を含み、その10%、すなわちlmgが毎日腸管から吸収される。
鉄の排泄は消化管上皮細胞の脱落により行われ、失われる鉄は1日平均lmgであり、通常は収支がとれている。しかし、成人の女性では月経出血のため月に平均30mg、すなわち一日平均2mgの鉄が失われることになる。また、出産や授乳ではさらに多くの鉄が失われるために、月経のある女性では貧血になり易い。また、鉄は赤血球以外の組織でも必要とされるために、身体が急激に発育する青少年でも欠乏が起こり易い。そのほか、胃・十二指腸潰瘍、痔、子宮筋腫、さらには胃癌、結腸癌、子宮癌等からの出血が原因になっていることがあるので、必ずこれらの疾患の有無を検索することが必要である。
症状としては一般貧血症状のほか、鉄欠乏に固有の症状、すなわち、ロ角炎、舌の表面が薄くなる(舌炎)、爪が脆くなったり、薄くなって反り返ったり(匙状爪)する事が認められることがある。しかし、一般には健康診断で発見されることも多い。
診断は血液検査で小球性低色素性貧血を示すので容易である。すなわち、赤血球の大きさが小さく、血色素の減少に比して赤血球数の減少の程度が少ない。ということは検査成績上はMCV(≦84)減少、MCH(≦27)減少、MCHC(≦30)減少という形で認められる。さらに、血清鉄の減少、血清総鉄結合能(TIBC)の増加、血清フェリチンの減少を血液検査で認めれば診断は確実である。
治療は鉄の経口剤で治療される。鉄剤による治療によって貧血が回復してもすぐ鉄剤の内服を中止せず、貯蔵鉄が十分蓄えられるまで治療を続けることが再発の防止に必要である。すなわち、血液値はもとよりTIBC、血清フェリチン値が正常になることが必要である。鉄欠乏の予防には鉄の多い食物を摂取するのがよいのは言うまでもないが、吸収し易い鉄を食する必要がある。吸収し易い鉄とは一般に動物性の鉄であり、卵黄、プルン、ほうれんそうに含まれる鉄は吸収されにくいことを知るべきである。
重要なことは前述の様な出血源が明らかであれば、これを治療することであり、特に悪性腫瘍による出血は見逃してはいけない。
一般に注意すべきは、検診で貧血が認められたとき、頻度が多いという理由のみで、検査機関の指示で安易に鉄剤の治療を行っていることが良くみられる。少なくとも小球性でない貧血は鉄欠乏の可能性は少ない。後記のごとき重大な疾患が存在することに留意し、検査を行うべきである。
2)ビタミンB12や葉酸欠乏による貧血
ビタミンB12欠乏による貧血は悪性貧血と呼ばれ高齢者に多い貧血である。ビタミンB12は胃から分泌される内因子と結合して回腸で吸収されるので、内因子欠乏により起こる。特徴は赤血球が大きくなることであり、すなわちMCVが大(≧110〜120)となる。時に白血球減少や血小板減少を伴うことがある。胃切除後には内因子の欠乏により同様な貧血を起こす。葉酸はB12の様な特殊な吸収機構がないので、菜食主義者や、慢性下痢症を除いて起こりにくい。この貧血は診断さえつけば欠乏しているビタミンB12の注射や葉酸経口投与により容易に治癒するので、専門医を受診する必要がある。
3)溶血性貧血
これらの貧血は末梢血検査で一般に正球性(MCV 85〜100)正色素性(MCHC31〜35)貧血であり、網赤血球と呼ばれる幼若な赤血球が増加する。
先天的黄疸と呼ばれる赤血球の形態異常のある貧血は、一般に家族性に起こり、黄疸が認められる。軽度のものは治療無しで通常の生活が可能である。後天的に起こるマラリヤ感染にともなう貧血も溶血によるものであるが、この場合はマラリア多発地帯を訪れたことのある人に起こり、マラリアの症状が認められる。また、後天的に発症する自己免疫性貧血は、急激に起こり、黄疸を認めることが多く、危険な貧血であるので、直ちに専門医の診断、治療を受ける必要がある。
4)造血不全による貧血
これらに属する貧血も一般に正球性正色素性貧血の形を示す。
このうち腎不全にともなう貧血は、腎臓病の症状がある。この貧血の主因はEpo欠乏によるので、Epo製剤で治療される。
しかし、その他の骨髄自身に傷害のある貧血は、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫等の造血器腫瘍や再生不良性貧血など重大な血液疾患である。これらの疾患の症状は貧血症状に加えて、発熱、皮下・鼻・歯肉出血等を伴うので、これらの症状を認めたときも直ちに血液検査を受け、赤血球減少の他、白血球数や血小板数に異常が認められたら、直ちに専門医の診察を受ける必要がある。また、定期の検診や他の疾患の検査のおりに、偶然赤血球減少のみならず、白血球の減少や増加、あるいは血小板の減少などを認めた場合も、至急精密検査を受ける必要がある。
5)種々の原因の組み合わせによって起こる貧血
慢性感染症、膠原病、悪性腫蕩、肝疾患、内分泌疾患に伴って起こる貧血である。一般に正球性正色素性貧血である。しかし、慢性感染症や膠原病に伴う場合、特に小球性になる場合があるので、この時は鉄欠乏性貧血との鑑別が重要であるので、必ず血清鉄、TIBC、血清フェリチンの測定を行う。この場合は血清鉄減少はみられるが、TIBCの増加や、フェリチンの低下は見られない。したがって、鉄剤は効果なくむしろ害がある。