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尿酸(uricacid)は、細胞の遺伝情報にあずかる核酸、即ちDNAとRNAの代謝やエネルギー代謝の過程で生じる、プリン体と呼ばれる成分の最終的な代謝産物で、一種の老廃物である。通常、毎日ほぼ一定量が作られ、主として腎臓から尿中に、一部は大便に排泄される。この生成と排泄のバランスがよく保たれ、血液中の尿酸量は一定の範囲に維持されている。このバランスが崩れて、血液中の尿酸の量が増加し、正常範囲を超えた状態を高尿酸血症と呼ぶ。尿酸は溶解しにくいため、濃度が高くなると関節や腎臓などに析出して、関節炎や尿路結石、腎障害などをおこすが、中でも足のおやゆびのつけ根の関節炎は、突然の激痛が発作的に襲うため、痛風と呼ばれている。今日痛風(gout)と高尿酸血症(hyperuricemia)は、ほぼ同義語と認められている。
高尿酸血症は、白血球や慢性の腎臓病、ある種の薬剤の副作用などの特殊な原因で起こる場合もあるが、大部分は原因不明である。一般に、尿酸値が高くなりやすい遺伝的な体質に、肥満や飲食の不摂生、ストレスなどの環境因子がかかわり合って発生すると考えられる。
痛風は、以前わが国では稀な病気とされていたが、1960年代に入り、経済の高度成長と共に徐々に増加して来た。高尿酸血症は、40〜50才代の働き盛りの男性に圧倒的に多く、女性での発症は非常に少ない。女性ホルモンの尿酸排泄作用によるもので、更年期になると女性でも血中尿酸値は上昇する。
高尿酸血症を持つ人が海外勤務する場合、痛風発作や腎障害などをおこさないよう、尿酸値のコントロールを心掛けなくてはならない。
高尿酸血症の治療
血中尿酸値の正常範囲は研究者や医療機関により若干バラツキがあるが、7.0mg/dl以上を高尿酸血症とするのが一般的である。高尿酸血症でも、血中尿酸値が7.5mg/dl附近であれば、痛風発作をおこすことは殆どないが、尿酸値が高くなるほど痛風発作をおこしやすくなる。血中尿酸値が常に9.0mg/dl以上の場合は、これまでに痛風発作をおこしたことがなくとも、高尿酸血症治療剤による尿酸のコントロールが必要となる。
高尿酸血症治療剤には、尿酸の生成を抑える薬と尿の中への尿酸の排泄を促進する薬の2種類がある。どちらの薬を使用するかは、体内の尿酸の動態や賢障害、高血圧その他合併症の状態などを総合して決定される。服薬は相当長期間ないし一生続けることになる。
治療薬は少量からはじめて、2〜4週間ごとに血中尿酸値を測定しながら、徐々に増量してゆく。血中尿酸を急激にさげると、しばしば痛風発作を誘発することになるからである。服薬は毎日規則正しく続けなくてはならない。自分勝手に服薬を中断したり再開したりすると発作が誘発される。高尿酸血症治療剤の服薬を開始すると、体内各所に沈着していた尿酸が少しづつ溶け出してくるため、体内の尿酸の分布が不安定となり、発作がおこりやすい状態となる。このような状態は、服薬開始から3〜6カ月続く。
したがって、海外赴任前の健康診断などで、血中尿酸が非常に高いことにはじめて気づき、治療を開始したような場合は、3力月以上、出来れば6カ月間コントロールを続け、安定した状態になってから赴任することが望ましい。
服薬は、血中尿酸値が正常となっても中断せず、維持量を継続する。
痛風発作
既に述べた通り、高濃度の血中尿酸が関節に析出したためにおこる急性関節炎で、足の拇趾趾根関節におこることが最も多い。その他、ほかの足ゆびの関節や手の指関節、足関節、手関節などにも現れることもあるが、股関節や肩関節のような躯幹部に近い大きな関節がおかされることはない。
痛みは激烈で、局部は赤く腫れ、熱を持つ。これらの症状は突然はじまり、通常24時間以内に最高に達する。
1.局所療法
罹患足を心臓より少し高い位置に保持し、冷湿布する。心臓より高くして冷やすと、患部のうっ血がとれ痛みが緩和される。痛む関節を動かさない方がよいのは当然である。痛みが減少し、我慢出来るようになったら、冷湿布はやめる。尿酸は低温で析出しやすくなるので、発作時以外は冷やさない方がよい。
2.薬物療法
発作は放置しても数日以内に軽減しはじめ、2〜3週間でほぼ完全に消失するが、消炎鎮痛剤は、激痛を緩和する効果がある。内服よりも坐薬の方が鎮痛効果が早く現れる。但し、消炎鎮痛剤は、副作用として著明な胃腸障害をおこすことがある。特に、胃または十二指腸潰瘍の既往歴がある場合は、坐薬でも急性増悪をおこし、出血することもあるので、抗潰瘍剤を併用し、また長期の連用は避けなくてはならない。なお、アスピリンは、尿酸の排出を妨げる作用があるので、使用してはならない。
コルヒチンは、痛風発作の前兆の時期に1錠(0.5mg)服用すると発作を頓挫させるが、発作がはじまってからでは効果が得られない。コルヒチンは、強度の下痢や食欲不振など強い副作用があるので、タイミングを逃した場合は使用を断念すべきである。また、コルヒチンは細胞分裂を障害し、精子の産生にも弊害を及ぼすので、若い年齢では使用しない方がよいとされている。
痛風発作中に血液中の尿酸を低下させると、症状を更に悪化させるため、発作中に高尿酸血症治療剤の服用を開始したり服用量を増やしたりしてはならない。高尿酸血症治療薬による尿酸のコントロールは、痛風発作が完全に軽快してから開始しなくてはならない。痛風発作がおさまったからといって、高尿酸血症のコントロールをしないでいると、必ず痛風発作が再発する。
日常生活の注意
高尿酸血症の場合、治療薬を服用している人も、服薬していない人も、日常生活で血中尿酸値を下げるための自己管理が必要である。因に表1は、高尿酸血症を悪化させる要因をまとめたものである。
表1 高尿酸血症を悪化させる要因
1.肥満(食べ過ぎと運動不足)
2.アルコールの過剰摂取(特にビール)
3.薬物(サイアザイド系降圧利尿剤、ループ利尿 剤、アスピリン、抗癌剤等)
4.多量の発汗、脱水
5.断食や絶食による飢餓状態
6.無酸素的な激しい運動
7.精神的ストレス
8.服用中の高尿酸血症治療剤の自分勝手な中断および再開
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食事の注意:
血中尿酸値は体重が増加すると上昇し、体重が減ると下降する。食事の注意としては、まず総カロリーを制限し、食べ過ぎないようにする。しかし減量のため、断食や絶食などをすると、体組織の崩壊により多量のプリン体が生じ、尿酸産生が増加する。また、体内に多量の各種有機酸が産生され、これが尿酸の尿への排出を妨害して血中尿酸値を上昇させると同時に、尿を酸性にして腎障害や尿路結石を生じやすくする。
尿酸は、体内の新陳代謝で生じるプリン体のみでなく、食事で摂取した食品中のプリン体からも生成される。したがって、プリン体を多く含む食品をたくさん食べないようにするとよいが、それには、多くの食品を少しづつ食べ、腹八分目を心掛けることが大切である。牛や豚のレバーやアンキモなどの内臓や魚の白子はプリン体が極端に多い食品だが、これらは、ごくたまに少量を食べるというのが普通である。牛肉や豚肉、魚介類は、これに次いでプリン体が多い。しかし、これらを加工したソーセージやかまぼこなどのプリン体は、原料の半分程度に減少している。プリン体は水に溶けやすく、加工の過程で失われるためである。このように、調理法によって食物のプリン体含量は変化する。プリン体が比較的多い肉や魚介類でも、よく煮て煮汁を除けばプリン体を少なくすることが出来る。一方、豚骨スープなどは、肉がはいっていなくとも、プリン体の含量は多い。水炊きやすき焼きでは、肉よりも煮汁を多く含んだ野菜やしらたきにプリン体が移行しているので、肉を避けて野菜やしらたきだけを食べるのは得策とは言えない。なお、プリン体は油には溶けないので、天ぷらにしても減少しない。
食事のもう一つの注意として、尿をアルカリ性にする野菜、海草、牛乳など、いわゆるアルカリ性食品と水分を充分にとるようにすることも大切である。尿酸は尿が酸性に傾くと特に溶けにくく、尿路結石が出来やすくなるからである。
食事のもう一つの注意として、尿をアルカリ性にする野菜、海草、牛乳など、いわゆるアルカリ性食品と水分を充分にとるようにすることも大切である。尿酸は尿が酸性に傾くと特に溶けにくく、尿路結石が出来やすくなるからである。
飲酒は控え目に
飲酒は血中尿酸を増加させる。特にビールにはその作用が著しい。ビールは麦芽と酵母で作るが、麦芽の発芽の際、プリン体が大量に産生される。また酵母にも多量のプリン体が含まれている。日本酒や葡萄酒などの醸造酒も、酵母を加えて発行させるが、発芽の過程がないため、同じアルコール量でのビールとの比較では、プリン体の含量は10分の1以下である。ウィスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒にはプリン体は殆ど含まれていない。
一方、アルコール自体も、体内で代謝される際、プリン体の代謝を促進し、尿酸産生を増加させる。また、アルコールは酸化される際、多量の有機酸を生じ、尿酸の排出低下による血中尿酸値上昇と、尿の酸性化による尿路結石、腎障害を生じやすくする。
高尿酸血症治療薬により安定した状態となり、規則正しく服薬を継続していれば、飲酒の影響はそれほど心配しなくてもよいが、ビールは一日に1本程度、ウィスキーや日本酒も過量ないし連日の飲酒を避ける可きは、糖尿病や高脂血症など成人病一般に共通である。
水分摂取
尿酸は腎臓から尿中に排泄されるので、水分を充分にとり尿量を多くすれば、尿酸も尿中に多く出て血中尿酸値は低下する。反対に、水分摂取が不足して尿量が減少すれば、血中尿酸値は上昇する。また、尿量が少ないと尿中の尿酸濃度が高くなり、腎障害や尿路結石を生じやすくなる。高尿酸血症では、1日2リットル程度の尿量を保つように、水分摂取を心がける。とくに熱帯地域や乾燥地域では、発汗や不感蒸散による皮膚などからの水分喪失が大きく、尿量の著しい減少を来たしやすいので、頻回の水分摂取が必要となる。炎天下でのゴルフなども同様の注意が必要である。因に汗に尿酸は排出されない。
軽い運動のすすめ
運動はエネルギー消費の増大による肥満対策だけでなく、心身の活性化により、体力を増進し、老化の防止に効果があるとして、食事療法と共に、各種成人病の予防と治療に共通した重要な因子となっている。
運動は、糖質と脂肪が、充分な酸素供給下で炭酸ガスと水までに完全燃焼する際のエネルギーを利用する有酸素運動と、酸素を利用せずに、糖質が乳酸に変化する際に生じるエネルギーを利用する無酸素運動に大別される。成人病対策に有効なのは、前者の有酸素運動であるが、高尿酸血症においては、特にその意味は重大である。無酸素運動の際生じる乳酸は、腎臓から尿への尿酸の排出を妨げ血中尿酸値を上昇させると同時に、尿を酸性にして腎障害、尿路結石の誘因となる。
有酸素運動は、早足歩き、ジョギング、サイクリング、ゴルフ、社交ダンス、水泳などで、これに対し、無酸素運動は短距離の全力疾走、ジャンプ、重量挙げ、柔道、相撲、ボクシング等である。また、サッカー、ラグビー、バスケットボール、ハンドボール等の球技は両者の中間の混合運動である。
一般に「220−年齢」で各年齢の最大心拍数を求め、運動中の脈拍がその60〜70%の範囲であれば有酸素運動であるが、その範囲を超すと無酸素的な傾向が大きくなる。有酸素運動は心臓血管系に無理がなく、長時間続けることが出来るのに対し、無酸素運動は息切れが激しく、乳酸が蓄積するため短時間で疲労する。なお、高血圧などの治療にβ遮断剤を服用している場合は、運動中の脈拍が指標とならないので、主治医と相談する必要がある。
高尿酸血症の人が激しい運動をすると、しばしば痛風発作が誘発されるが、これは、無酸素的な運動によって生じた乳酸が、尿酸の尿中への排泄を阻害することに加え、激しい筋肉運動のエネルギー代謝から生じた大量のプリン体が、血中尿酸の増加を来すことによるものである。
日常生活では、なるべく体をよく動かすことを心掛け、運動としては軽く息がはずむ程度の楽な運動を1日20〜40分間、週3〜4回励行する。なお、運動の際、水分補給を忘れないようにする。
ストレスの発散解消
精神的ストレスは、血中尿酸値を上昇させることが認められている。ストレス状態では、内分泌系、自律神経系、免疫系などに多様な変化があらわれる。
海外勤務による生活環境の急激な変化は、それ自体大きなストレッサーであるが、現地への適応の経過と供に次第に軽減する。
家族同伴と単身赴任では、後者にストレスが強いのは当然である。
仕事の面では、達成すべき要求や期待の大きさはストレスと比例し、これらに対する各種の支援はストレスの緩和に働く。海外勤務者は、大きな期待を担って赴任する反面、国内勤務に比し支援体勢は、通常、限られたものである。赴任当初から、あまり張り切らず、まずは高尿酸血症に対処する自分の生活基盤を確保し、徐々に仕事に着手するのがよい。
ストレスの発散解消は個人のレベルで種々と工夫すべきだが、飲酒過多や過激な運動、トレーニングなどにのめりこむのはすでに述べた通り厳禁である。
紹介状の作成依頼と治療薬持参の準備
高尿酸血症治療薬の服用は海外勤務中も継続しなくてはならない。また、定期的に血中尿酸値を測定して、安定したコントロール状態が持続しているか否かを確認する必要もある。そのため現地医師の受診は不可欠である。治療薬を服用していない場合でも、突然の痛風発作などで現地医師の受診が必要となる場合もある。
海外赴任に際し、主治医に病状と治療経過を略記した英文紹介状の作成を依頼する。医師が多忙などの場合は、和文の紹介状を翻訳の専門機関に依頼してもよい。紹介状の内容について、処方薬が、万国共通の一般名で記載されていることについて注意する必要がある。日本国内での医薬品の市販名は、海外では通用しないことが多い。
赴任したら、現地医師の受診はなるべく早い方がよいが、やむを得ず時を経過してしまうことがあるので、2〜3カ月分の必要な治療薬を持参することが望ましい。通関の際、医薬品の持ち込みは、現地の医療行政により厳重に規制されているが、本人の病気治療に必要な医薬品の2〜3カ月分程度であれば許可してもらえると考えてよい。但し、医薬品の内容と治療中の病名等を記載した英文証明書を所持する必要がある。
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