表2(P.18参照)の項目1)〜3)は食生活の変化に対する消化器系、内分泌系のチェックのため、
項目4)は、感染症に対するため、
項目5)は、事故や手術時の輸血に対応するため
項目6)は、寄生虫感染に対するために、一般健診に追加して行われます。
以下、各検査項目について解説します。
1.腹部画像診断(胃部エックス線検査、腹部超音波検査)
1)胃部エックス線検査
胃はみぞおちの部分から腹部の左側にわたって位置し、上方は食道につながり、下方は十二指腸につながります。その形態は袋状ですが、個人差が大きく、いわゆる胃下垂と言われるように下方にたれさがった状態のこともあります。
胃部エックス線検査とは、口よりバリウム(造影剤)を飲んで、食道、胃、十二指腸の内面の変化を見る検査です。この検査によって診断される病気には様々なものがありますが、以下に代表的な病気について、ふれておきたいと思います。
a)胃、十二指腸潰瘍
胃はその壁から塩酸や消化液を分泌し、食物の消化を行っていますが、この塩酸の分泌がコントロールできなくなると胃潰瘍を引き起こします。潰瘍とは分かりやすく言えば胃壁の一部がむしりとれて、えぐられた状態のことです。よって、潰瘍が食道にできれば食道潰瘍、胃にできれば胃潰瘍、十二指腸にできれば十二指腸潰瘍といいます。これら潰瘍の症状はみぞおちの痛み、胸やけ、げっぷ、吐き気、嘔吐などですが、時に吐血や黒色便などが出現します。
b)胃癌
胃癌は大きく早期胃癌と進行胃癌に分けられます。図2に胃壁の構造を示しますが、早期胃癌とは癌がこの壁の粘膜下層以内にとどまったもので、それ以上に深く進んだものを進行胃癌といいます。

図2 胃壁の構造
胃癌の症状は前の胃潰瘍と同様の症状も示しますし、その他、食欲不振、胃部膨張満感、体重現象などを示すこともあります。
図3
図3に見る如く、昭和56年には、日本での死因の第1位悪性腫瘍となり、これをふまえて、昭和58年より現行の胃癌検診が開始されています。その後、検診により早期胃癌症例の発見が増加し、その予後も急激に改善されてきています。
その他、食道、胃、十二指腸には様々な病気がありますが、検診結果に注意し、必要ならば胃内視鏡検査等の精密検査を受けて下さい。
検診の実施回数は、胃部レントゲン検査による場合は、40才以上であるならば年1回程度が一般的ですが、海外赴任者の場合は、時には胃内視鏡検査を当初より受けることをおすすめします。
2)腹部超音波検査
超音波検査とは、数ミリワットぐらいの弱い超音波を身体にあて、身体の内の諸臓器から跳ね返ってくるエコー反射を、映像化したものです。ですから、胎児や身体に対する危険もなく、人の生きたままの状態を見る事が出来るわけです。
腹部超音波検査で検索する範囲は施設によって異なりますが、一般的には、肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓などの上腹部ですが、時には膀胱、前立腺、子宮、卵巣などの下腹部まで検査してくれる施設もありますので、その範囲を知っておくことも大事でしょう。以下、比較的超音波検査で診断しやすい上腹部各臓器の代表的な病気について、いくつか解説しておきたいと思います。
a)肝臓
@脂肪肝
栄養過多、糖尿病、アルコール過多などが原因となり、肝細胞の中に中性脂肪がたまった状態です。自覚的には何の異常もありませんが、悪化するとアルコール性肝炎となり、腹痛、下痢、黄疸(皮膚や粘膜が黄色になる)などを認めます。
A肝硬変
様々な肝臓の病気(慢性肝炎、アルコール性肝炎等)の終末点が肝硬変です。先に述べた様に肝臓は再生能力にすぐれた臓器ですが、肝硬変に至った場合は、再生不能であり、慢性に経過し、時に死に至る病気です。病気が悪化すると、全身倦怠感、黄疸、腹水、食道静脈瘤、精神障害といった症状を認めます。
B肝臓癌
慢性肝炎、肝硬変に合併して起こることが多い癌ですが、特にB型肝炎やC型肝炎の飲酒歴の長い人での発症がよく知られています。当初は何の症状も認めませんので、健診や他病気の検査中に発見される事も多く、進行すると黄疸や腹水などがあらわれ、徐々に衰弱し、死亡します。
b)胆嚢
@胆石
胆嚢や胆管内に、コレステロール、胆汁成分、カルシウムなどが析出して石状となったものです。病名は石の出来る場所によって異なります(図4)

図4 胆石のできる場所
30才以上の女性に多く、肥満傾向の人に多く見られます。脂っこいものを食べた後などに突然上腹部の激痛で発症することがあり、発熱や嘔吐したりします。
A胆管癌
ごくまれな病気ですが、発見されにくい癌の一つです。黄疸などで発症し、進行すると徐々に衰弱し死亡します。
c)膵臓
@急性、慢性膵炎
急性膵炎は暴飲暴食が原因となり発症することが多く、上腹部から背中に向かって激痛が起こり、時にショック状態となりますが、超音波検査だけで診断するのは難しいようです。
慢性膵炎は胆石やアルコールを原因とすることが多く、上腹部から背中に向かって痛みが起こります。超音波検査では特有な所見を示すこともあり、疑いを指摘されたら、必ず精密検査を受けて下さい。
A膵臓癌
かなり進行するまで症状が現われにくいため、健診や他病気の検査中に認められることも多く、発見されにくい癌の一つです。
d)腎臓
@腎のう胞
腎臓の表面あるいは内部に出来るのう法(袋状のもの)です。大部分は、無症状で治療の必要のないものですが、時に巨大になったり、多発して、腎臓の正常な部分を圧迫して、腎機能に障害をきたすこともあり、経過観察が必要です。
A尿路結石
尿流の異常、尿路感染などを原因として、尿中のカルシウムが石状となったもので、部位により各々、腎結石、尿管結石、膀胱結石と言われます。部位に一致して激しい痛みを伴うことがあり、血尿を見たり、小結石が自然に排出されることもあります。症状があったり、尿路の通過障害などがある場合は、治療の対象となりますので、指摘を受けたら必ず病院を受診して下さい。
B腎癌
血尿や痛み、しこりの触知などで自覚されることが多く、健診などで発見されることもあります。超音波検査で比較的検出しやすい病気です。発見が遅れれば、当然致死的となります。
以上、上腹部超音波検査で診断しやすい代表的な病気について概説しました。しかし、各病気ともその程度により指導も異なってきますので、基本的には健診結果の判定に従っていただきたいと思います。
2.血糖
尿糖が陽性の場合や自覚症状、他覚所見にて糖尿が疑われる時に行われます。
一般に、空腹時の血糖値が110mg/dl未満または、随時血糖値が140mg/dl未満の場合は異常なしとされますが、空腹時の血糖が110以上140mg/dl未満、または、随時血糖値が140以上200mg/dl未満の場合は、さらにヘモグロビンA1cは、過去1、2ヶ月間の一日平均血糖値とほぼ相関するため、糖尿病の確定診断には欠かせません。このヘモグロビンA1cの値が6%以上の場合は糖尿病として、病院での治療が必要となりますし、5.6%以上6.0%未満の場合は、直ちに精密検査や治療の必要はありませんが、食生活の指導を受け、1年後に再検査を受けることが必要です。
しかし、これらは一般的な話であって、現に糖尿病としての症状や身体所見がある場合は、血糖値に関係なく当然病院の受診がすすめられます。
また、空腹時の血糖値が140mg/dl以1の場合や、随時血糖値が200mg/dl以上の場合は、糖尿病の診断のもと、病院での治療が必要となります。
さらに、糖尿病の検査として、よく行なわれるものに75gぶどう糖負荷試験があります。これは、ぶどう糖液を飲用し(経口法)、吸収されたぶどう糖の血液中の濃度変化を空腹時(飲用直前)、飲用後1時間、飲用後2時間に採血し検査するものです。糖尿病の人の場合は、各血糖値が正常者より高めとなり、これにより診断されます。
糖尿病の説明については、尿検査の項で、前述してありますので、そちらを是非読んで下さい。
3.血液中の尿酸の量の検査
血液中の尿酸の量が増加した状態を高尿酸血症といいます。その原因は、尿酸の産生過剰(高プリン食、高たんばく食である肉などの過剰摂取、血液疾患など)と排泄低下(腎機能障害、サイアザイド、フロセマイドなどの降圧剤、妊娠中毒症等)とがありますが、高プリン食、高たんぱく食に起因することが多い様です。また、高尿酸血症は40〜50才の男性で、肥満者に多く認められます。
一般に血中尿酸値の正常値は、
となっています。
高尿酸血症が続いて、それが関節に沈着し炎症をおこす病気を痛風といいます。痛風の症状は、突然の足の親指のつけ根の急激な痛みでおこることが多く、放置しても数日から1週間程で自然に軽快します。その他、足首や膝、肘、手首などの関節に痛みが起こることもあります。また、皮膚(特に耳介)に痛風結節と言われる尿酸の結晶が固まったものが見られることもあります。特に、尿酸が尿中で結晶になり、腎臓や尿管に結石をつくったり、腎臓自体に機能障害をおこすこともあり、健診で指摘を受けたら、早めにコントロールすることが大事です。特に尿酸値が10mg/dl以上の場合、関節炎等の症状が出やすいので、早期に病院で治療を受けることをおすすめします。
4.B型肝炎ウイルス抗体検査
現在知られている肝炎には、A型、B型、C型、D型、E型などがあります。
B型肝炎は、過去には輸血などによる経皮感染が主な原因でしたが、現在はB型肝炎の保有者や保有者との性交渉、B型肝炎保有者である母親から、新生児への感染などが多くなっています。
世界的に見てもB型肝炎の保有者は、アジア、アフリカ諸国では、3〜10%と高率であり、注意が必要です。
B型肝炎ウイルスに感染すると急性肝炎を起こしますが、多くは治癒し免疫を得る一過性肝炎と、生涯感染が持続し保有者(キャリアー)となる場合があります。
一般に行なわれるB型肝炎ウイルスの検査にはHBs抗体とHBs抗原がありますが、その検査の意味するものは、
HBs抗原:B型肝炎ウイルスに感染していることを示す。
HBs抗体:過去にB型肝炎ウイルスの感染を受けたことを示し、感染防御抗体である。
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B型肝炎ウイルスの予防法としては、B型肝炎ワクチンによる能動免疫とB型肝炎ウイルス抗体による受動免疫とがあります。各々の適用と方法については医療機関に問い合わせていただきたいと思います。
項目にはありませんが、海外で問題となるA型肝炎についてもここで概説したいと思います。A型肝炎は、汚染された水および食物より感染する経口感染が主な原因です。現在日本ではその免疫を持った人が減少していますが、熱帯、亜熱帯地域では高率であり、特にアフリカ地域では80〜100%と言われています。
一般に行われるA型肝炎ウイルス検査は、IgM-HA抗体とHA抗体で、各々
IgM-HA抗体:早期より一過性に陽性となり、急性A型肝炎の確定診断に有用。
HA抗体:過去のA型肝炎ウイルス感染を示す。
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を意味します。
予防法は、HAワクチンが非常に有効です。
5.ABO式およびRh式の血液型検査
ABO式血液型による血液型には、A型、B型、O型、AB型があり、現在日本人の各頻度は、40%、20%、10%、30%です。
血液型は輸血の際の型不適合を避けるために自分自身も知っていることが大切です。しかし、実際の輸血の際には病院で適合試験を行うのが一般的ですので、充分なチェックがおこなわれます。また、最近は全血輸血より成分輸血が主体となり、より副作用の出現は少なくなっています。
血液型にABO型以外にも様々な血液型があり、Rh型もその内の一つです。Rh式には陽性と陰性があり、日本人では陰性の頻度は0.5%と低く、欧米人の15%と比べると非常に少なく、Rh陰性の人は輸血の際には充分に注意し、病院へ自己申告して下さい。
6.糞便塗抹検査
海外赴任者の20〜50%が下痢症を起こす現状を考えれば、同検査の重要性が理解されると思います。
表4に示す如く、その原因菌も様々であり、特に日本ではほとんど認められない菌も多く、その多様さがうかがえます。

同検査でわかることは、血液や粘液、膿の存在によって様々な病気を知ることが出来る以外に、寄生虫や虫卵、原虫を診断することが出来ます。
虫体の検査:条虫や回虫など。
虫卵の検査:鞭虫、肝吸虫、回虫、鉤虫など。
原虫の検査:赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫。
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一般に症状は、軽症のことが多く、下痢、腹痛、発熱、嘔吐、血便等ですが、時に重篤となることもあります。また、病原菌により潜伏期間や症状が続く期間も異なりますので、赴任中だけでなく、帰国後も注意が必要です(表5)。

何れにしても、汚染地域では日本でと同様の衛生環境は望めませんから、飲料水や生野菜、生の魚介類、肉類などには、自分自身で充分に注意することが大切です。
以上、各健診項目について解説しましたが、内容にかなり専門的な部分を加えましたので、理解の難しい所もあると思います。
しかし、海外赴任される方は、特に“自分の体は自分で守る。”という気持ちが大切ですので、自分の健診結果については日本にいる時以上に充分な理解が必要です。
理解の難しいところや自分の健診結果については、かかりつけ医や健診担当医に御相談いただけると幸いです。
最後に、皆様の無事御帰国を祈念して、この解説を終わりたいと思います。
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