生活習慣病の改善や予防のための指導は、海外生活においてはとくに必要です。
食習慣: 例えば胃潰瘍の人の場合、飲酒や辛い食べ物は潰瘍を悪化させます。高尿酸血症の場合は、体重を減らす努力が必要であり、アルコールは尿酸値を高めるので量を減らすように指導します。胆石を持っている人には、現地の脂ぎった料理や肉料理で胆石発作を起こしやすいので、食べ物についての産業医の指導が必要になります。
運動習慣: 日本にいるときでさえも日本人は欧米人より運動量が少ないと言われております。ましてや海外においては、治安の悪さから車での移動が多くなり、ゴルフ以外には運動らしいことをしない人もかなりいるようです。できることなら、座談会でも述べられていたように、企業自体がスポーツクラブの会員権を持ち、積極的に運動させる取り計らいが望ましいでしょう。
休養: 海外赴任の場合は、一般に日本ほど通勤時間がかからないことが多いので、休養時間はけっこう取れることと思います。しかし中近東や北アフリカにあるモスレムの国の場合は、女の人は肌を露出させてはいけないとか、外出時にはトーブといわれるずきんを頭から足の先までかぶらされたり、アルコールは外国人の場合もタブーで、見つかったらムチ打ち刑になる国さえもあります。モスレムの国では娯楽はありません。断食月(ラマダン)になると現地の人は朝から日没まで食べません。したがって仕事にならない日々を過ごすことになります。そのようなところでストレスを感じない邦人はまずいません。そういう国へ派遣している場合は、出国させて他の国で十分休養を取らせるようにすべきでしょう。
アルコール: 生活習慣病の多くは、よく飲酒によって悪化することがあります。海外赴任者は、現地の人の接待に加えて、日本から来る上司たちのたび重なる接待に追われるということをよく耳にします。接待の数に比例して飲酒量も多くなるので、会社としても配慮が必要でしょう。
また、単身赴任者は飲酒の機会が多くなる傾向にあります。アルコールを制限されている生活習慣病の人の場合は、できるだけ単身赴任を避け、家族同伴の赴任にする配慮が必要です。
W. 疾患への対応
まずは、持病のある赴任者のために薬を確保することが大事です。実際には、一時帰国のときに持たせたり、定期的に送る企業もありますが、とくに薬の確保に努めていない企業が最も多い現状です。一時帰国したときに薬を与えてもその量だけでは足りなくなります。私の経験でも、高血圧の人が企業からもらった薬を長持ちさせるために、1日3回の服用回数を1回に減らしている方がおりました。定期的送付にしても、日本にいる家族または親戚が、本人にかわって代診を受けて医師からもらった薬を送るとか、企業の産業医に処方を書いてもらって入手した薬を送るというやり方が多いようですが、診察なしで処方することは本来は好ましくありません。
したがって、企業あるいは日本人会の単位で現地の信頼できるかかりつけ医を決めておき、その医師の処方によって現地で薬を入手するのが理想的と思われます。この場合、企業の産業医としては、紹介状に本人の内服薬を国際的に通用する一般名で記載し、かつ内服量も忘れずに記載することが必要です。というのは、欧米においては、現地の人の体が大きいため、通常日本での処方量よりも多めに出される傾向があるからです。
赴任者が産業医と相談するシステムを確立しておくことも大切です。産業医がいない場合には、海外から相談できる機関と提携し、赴任者が直接相談できるようにしておくことが必要でしょう。日本語による直接相談は、現地の医師では得られない安心感を与えるからです。
できるなら、産業医が直接現地に赴いて巡回健康相談するのがよいでしょう。海外、特に途上国においては、自分の健康をよく知っている医師に診てもらえることで大きな安心感をおぼえます。産業医がいない場合には、公的な巡回健康相談を積極的に利用するように海外赴任者に指導すべきでしょう。
緊急時の対応システムの確立も必要です。例えば赴任国をカバーしているアシスタンスサービスと提携するのも一つの方法です。
企業単位で現地に信頼できる顧問医と契約できれば、赴任者と家族の疾患の治療のためにはもちろんのこと、ふだんの健康管理のためにもより安心であることは言うまでもありません。
おわりに
海外では公的保険に入りにくい場合が多いので、企業として民間の医療保険に入っておくことや、労働基準監督暑を通して日本の労災保険に海外派遣者特別加入の形で申し込んでおく配慮も必要でしょう。
また、企業の診療室を中心に、赴任地の医療情報を常に把握しておく姿勢も必要です。赴任者と同伴家族に対して派遣企業が支える姿勢を見せることは、赴任者が企業のために活躍するための、不可欠な要素と考えられます。