ニュースレター(機関紙)
続・話題の感染症1「輸入感染症」
NL06080103
感染症
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| 続・話題の感染症1「輸入感染症」 (財)海外邦人医療基金(顧問) 長崎大学熱帯医学研究所(客員教授) おおり医院(院長) 大利 昌久 厚生労働省は、毎週、国内の感染症発生状況を指定医療機関から報告を受けている。最近、細菌性赤痢(2類感染症)、デング熱(4類感染症)およびアメーバ赤痢(5類感染症)などの海外からの持ち込み感染症、つまり「輸入感染症」が相次いだ。ごく普通の病気のように日本に輸入される傾向が高い印象である。 1980年代後半から、大腸菌O157、ニパウイルス、SARS、トリインフルエンザなど、人類がかつて遭遇することのなかった新興感染症が次々と出現。しかも、時期を同じくして、コレラ、赤痢、デング熱などの古典的な感染症が世界中に拡大、再興感染症として大きな問題となった。このように人類を取り巻く感染症の状況は激変し、この新興・再興感染症対策が世界各国の保健、医療分野で緊急の優先課題となってきた。 このような状況下、海外渡航者は、増加の一途をたどり、1990年には、1,000万人を超え、2000年には、1,781万人に達した。2001年の9.11米国テロ事件にて、多少、渡航者数は減少したものの、渡航者が日本に持ち帰る輸入感染症は減少していない。一方、海外からの入国者も年間約300万人を超え、外国人からの持ち込み輸入感染症もある。 また、多くのペットや食料も輸入され、これらの動物、食物に潜在する病原体が人に感染する例もあり、感染症リスク対策も必要である。 このように、本来、わが国に常在しない感染症が、人や輸入ペット、輸入食品、さらに輸入医薬品製剤などによって、国内に持ち込まれる場合を輸入感染症という。輸入感染症は、本人ばかりでなく、国内での二次感染の危険性もあり、深刻な対策が必要となってきた。 一般に、マラリア、細菌性赤痢、腸チフス、ウイルス性肝炎、デング熱、アメーバ赤痢、性感染症などが輸入感染症として問題となっている。なお、寄生虫疾患や南京虫、シラミ、疥癬なども忘れてはならない。 (1)主な輸入ウイルス感染症 @人が海外から持ち込む感染症 最近東南アジアを中心にデング熱・デング出血熱が急激に増加している。海外渡航中に現地で感染し、潜伏期間中に帰国し、国内で発症するケース。この可能性のある感染症の種類は多く、その代表がデング熱である。 主な流行地は東南アジアと中南米、特に東南アジアではほとんどの人が小児期に感染するので、「熱帯のはしか」ともいわれている。これらの熱帯地域に渡航した人が、帰国後、高熱を発した場合には、まずこのデング熱を疑う必要がある。 また、デング熱以外のアルボウイルス感染症として日本脳炎、黄熱などが、特に熱帯・亜熱帯地域を中心に流行中である。 最近では、1999年8月下旬に突然、ニューヨーク市でアルボウイルス脳炎患者が発生。このとき7名の死亡例が報告され、人、鳥、蚊から分離されたウイルスを同定したところ、ウガンダで発見された西ナイルウイルスであることが判明。アフリカが主な流行地である西ナイルウイルスがなぜニューヨークという大都会に侵入したのか、多くの論議をよんでいる。2005年10月、米国滞在の日本人が帰国後発熱。西ナイル脳炎と診断された。日本初の輸入例である。今後も警戒が必要。現在では、アメリカ、カナダの他、東南アジア、ヨーロッパでもみられる。 その他、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱は、重篤であり、患者が国内の医療機関で発見された場合は、深刻な事態になることが予想される。これらの出血熱は、患者の血液や体液から二次感染する危険性があり、死亡率が高いのが問題。最初はインフルエンザ様の症状を示すので、早期に診断して迅速に対応することが肝心である。 A輸入食品や生体材料等から感染 ウイルスに汚染された輸入食品から発症することがある。その多くは魚貝類で、急性肝炎を起こすA型肝炎ウイルス、ウイルス性下痢症の原因である小型球形ウイルス(SRSV)などがこれに該当する。調理時に、十分に加熱することが予防法である。 一方、血液製剤中には危険なウイルスが混入している可能性があり、輸入血液製剤が原因で発病したエイズはあまりにも有名。また、最近ではC型肝炎も問題になっている。 B動物から感染 ウイルスに汚染された動物から人が感染する場合がある。海外から持ち込まれたり、侵入してくる動物の場合は、国内にない感染症が発生する。この中で、最も注意すべきは、狂犬病である。 人の狂犬病は、東南アジア、中南米、アフリカに特に多い。日本国内では1957年以降、狂犬病の国産犬の報告は皆無。しかしながら、日本、イギリス、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて世界中で多数の患者発生があり、毎年約5万人が発症し、そのほとんどが死亡。きわめて死亡率は高い。イヌが主な感染源だが、他にネコ、ジャッカルやコウモリなど多くの野生動物も感染源となっている。 (2)衛生害虫から感染する代表的な感染症 @蚊 その代表はハマダラカが媒介するマラリアで、感染危険地域は熱帯地域全域が含まれる。アジアや中南米では都市部以外で流行しているのに対して、赤道アフリカでは都市を含め国内全域で流行しており、アフリカ諸国と交流機会の多い欧米ではより深刻。年間の輸入マラリア例数は英国で約2,000例、米国で約1,000例。日本でも最近は100例を超す。 空港近くの住民が航空機によって運ばれてきた感染蚊に刺されることで発症するマラリアを特に「空港マラリア」と呼び、「輸入マラリア」と区別している。過去30年間に、ヨーロッパを中心に約90例(フランス 26、ベルギー 16、英国 14など)が報告されている。これは中央および西部アフリカから多くの航空機が着陸するのと関連していると思われる。 最近、韓国では1993年に1名の患者が発生した後、休戦ライン地域を中心として三日熱マラリアの増加をみた。 なお、関西空港付近で、フィラリア症を媒介するネッタイイエカの生息が確認されており、日本でも他の節足動物が持ち込まれて繁殖する危険性が高まっている。 A昆虫、ダニ類 蚊以外の衛生害虫から感染するシャーガス病、アフリカトリパノソーマ症、バベシア症、ダニによるダニ脳炎、ライム病、ツツガムシ病なども極めて稀であるが、注意が必要である。 その他、カラ・アザール(リーシュマニアーシス)がインドおよび周辺国、ブラジル、スーダンなどで急増している。患者数は200万人以上で死亡者は年間20万人とも言われており致死率が高く、血液を媒介して感染する点でも注意すべき疾患である。 (3)ペットからの感染 21世紀に入り、多くのペットがわが国に輸入されている。イヌ、ネコ、トリに限らず、イグアナ、ミドリザル、プレーリードッグなどが増え、いわゆる人と動物共通の感染症(人獣共通感染症)が問題になってきた。特にイヌ、ネコから、イヌ、ネコ回虫症、Q熱、パスツレラ症、レプトスピラ症、瓜実条虫症。オウム、インコなどからオウム病。プレーリードッグからペスト。ミドリザルからサルモネラ症がみられる。なかには、重症化するので、これらの感染症を的確に診断し、治療する必要性が問われるものもある。 この対策のためには、ペット輸入時の検疫体制を強化することが必要だが、2005年9月より、輸入動物の現地での衛生証明書の提出が義務づけられ、感染症対策としては、一歩進んだといえる。 (4)感染源・感染経路からみた輸入感染症 輸入感染症の主な臨床症状は、発熱、下痢、発疹、皮膚症状、呼吸器症状などである。このような症状が帰国後みられたら、専門的な診断と治療が必要となる。表1に症状からみた輸入感染症を示した。表2に輸入感染症の潜伏期間を示した。1ヵ月以上の潜伏期の後、発病する場合は、特に専門医への受診が必要である。表3に皮膚症状がみられる感染症、表4に呼吸器症状を表す輸入感染症を示した。 (5)鑑別診断 輸入感染症には、鑑別診断が重要である。発熱には、まず血液塗抹標本を作成し、熱帯熱マラリアの診断を早期におこなう必要がある。マラリア以外に塗抹標本でトリパノソーマ症やリンパ系フィラリア症の診断ができる。 血液培養によって、腸チフス、パラチフス、ペスト、炭疽、バルトネラ症などがみつかる。 血清診断から出血熱や、ウイルス性肝炎、赤痢アメーバ症、ツツガムシ病、トリパノソーマなどが診断可能。 検便にて多くの寄生虫症やアメーバ赤痢、クリプトスポリジウムなどが診断できる。 検痰にて、肺結核、真菌症を鑑別する。PCR法にて、肺結核、ハンタウイルス肺症候群などが診断。 これらの検査を積極的に進めることも輸入感染症の早期発見、診断につながる。 (6)輸入感染症の危険性 航空機の発達によって、人と物の出入りに伴い、輸入感染症は簡単に入る。言わば、あらゆる感染症に国境の壁はなくなったといえる。これらの輸入感染症を水際で防止し、確実な診断、治療が求められている。 表1.症状からみた輸入感染
表2.輸入感染症の潜伏期
表3.皮膚症状がみられる輸入感染症
表4.主な呼吸器系輸入感染症
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